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マハラジャの葬列

マハラジャの葬列

アビール・ムカジー著 ハヤカワミステリ刊

イギリスからの独立直前のインドを舞台にした英国人警部ウィンダムとインド人のバネルジー部長刑事のシリーズ第2弾。

今回の舞台はカルカッタから離れたサンバルプール藩王国。カルカッタで暗殺されたサンバルプール藩王国の王太子の死の謎を解くためにサンバルプールを訪れる2人の活躍を描く。

真実は解明されるが事件が解決するわけではないという灰色の結末。しかし、この灰色の結末が権力争いの結末としては相応しいと思う。
後宮の立ち位置や、女性たちの持つ権力構造は分かりやすく、前作よりも面白かった。
この一見何も力がなさそうな女性たちが持つ権力については白人の男性には分かりにくいのかもしれない。3作目も翻訳されるようで楽しみ。

# by yamanochika | 2022-06-26 17:06 | 海外ミステリ

ゴーストランド 幽霊のいるアメリカ史

コリン・ディッキー著 国書刊行会刊

アメリカ各地に伝わる幽霊譚を分析し、何故その土地に幽霊が出ると言われるようになったのか、そして人はどのように幽霊と向き合ってきたのかを書いた作品。
まず幽霊譚が紹介され、実際にその土地で起きた幽霊譚の元になった事実が調査分析されていく。作中で紹介されている幽霊譚として有名なものは、セーラムの魔女裁判や、ウィンチェスター館であろうか。

少女達の集団ヒステリーから始まったとされるセーラムの魔女狩りは、世界で一番最後に魔女裁判が行われた場所として有名ではあるけれど、その背景に財産争いや土地の取得の問題があったことは知らなかった。そもそも最初に告発した少女と土地を争っていた家の女性が魔女として告発され、その後魔女として告発すれば簡単に相手から土地や財産を奪うことが出来ることに気付いた人物が、普通の魔女裁判ではあまりないような名家や財産家を狙っての告発を繰り返していく。歴史を深く掘り下げていくと見えてくるのはアメリカの暗部の歴史で、不当に得た利益についての処刑された人々の子孫に一切補償をしなくてもいいという法律が可決されるまで20世紀も半ばになるまで名誉回復されなかった人たちもいるのはまさに負の歴史というしかない。

ウィンチェスター館についても、幽霊譚と現実の未亡人についての事実の違いに驚く。彼女がアメリカが不況下においても、とても裕福で好きなだけお金を使って、自分の趣味の建築に没頭できたことから、彼女は不幸であり、恐ろしい目に遭っているに違いないという物語が作られていく。そうであって欲しいという願望は、ウィンチェスター館に出ると伝えられるようになった幽霊よりもずっと恐ろしい。

他にも何故南部で「迷信深い黒人」の昔話が多いのかなど、興味深い話が多かった。歴史、特に風俗史が好きな人にはおすすめ。

# by yamanochika | 2022-01-16 17:04 | その他読んだもの

遠巷説百物語

遠巷説百物語

京極夏彦著 角川書店刊

百物語シリーズ。今回の舞台は遠野。いつもとは違うキャラがメインなので番外編感が強い。時代設定は、続巷説百物語の後、後巷説百物語のよりはかなり前と言った所。
話としては割合静かな話が多くて、怖さや百物語の中に踏み入ってしまったような雰囲気はなかったけれど、人情話としてはそれなりに楽しめた。
この後何やかんやあって亡くなる人が更に増えるのかなあ。その時には祥五郎や遠野のお殿様の再登場も期待したい。

# by yamanochika | 2021-09-04 11:48 | 国内作家

見知らぬ人

エリー・グリフィス著 創元推理文庫刊

離婚して一人娘ジョージイとともに暮らす英語教師クレア。彼女は、19世紀の作家ホランドの研究をしており、かつてホランドが暮らしていた邸宅を旧館として使用しているタルガース中等学校に勤めている。
ある日、彼女の親友で同僚のエラが殺され、殺害現場からホランドの代表作「見知らぬ人」からとった言葉が残されていた。これは見立て殺人なのだろうか。クレアの周りでは不気味な出来事が続き、やがて第2の殺人が…。

教師であるクレア、事件を捜査するカー刑事、クレアの娘ジョージイの3人の視点で事件が語られていく。同じ出来事が別の人物の視点から語られることで物語りが複層的になり、さらに合間にゴシック小説である「見知らぬ人」が挿話されることで、ミステリ小説にゴシックホラーの味付けがされていく。ミステリ小説としてはかなり王道な作品で、謎がとけてから読み返すと思わぬ所に伏線が張られていたり、きちんと事件への手がかりがあり骨格がしっかりとした作品な上に、風味として付け加えられているゴシックホラーのおかげでサスペンス風味がましてものすごく面白くなっている。

このジャンルが違うものが統合した面白さが、他の視点人物から見た視点キャラの造形も同じように作用している。クレアは本人の自意識としてはごく普通の女性なんだけど、全くの他者から見ると高尚で近寄りがたい美人で、特に女性からは反感をもたれるタイプ。カー刑事も、初対面でありながらクレアにそこはかとない反感を抱く。お互いに良い印象のなかった2人がいろいろな事態を一緒にくぐって徐々に距離をつめていく描写も、クレア、カー刑事、更にジョージイの視点から書かれていて物語の深みを増している。

タイトルの「見知らぬ人」も、作中に出てくる作品のタイトルであり、さらに別の意味もあるダブルミーニングになっている。
複層的で複雑な味わいのある作品で、最後に解き明かされないまま残る謎もまた作品に複雑な味を加えている。カー刑事を主人公にした続編小説もぜひ邦訳してほしい。


# by yamanochika | 2021-09-02 13:01 | 海外ミステリ

アウトサイダー

アウトサイダー

スティーブン・キング著 文藝春秋社刊/翻訳 白石朗

小さな町を揺るがした少年の惨殺事件。目撃者の証言から町の少年野球のコーチ、テリーが犯人として野球の試合の最中、衆人環視の下で逮捕される。
しかし彼には当日遠く離れた別の街にいたアリバイがあった。それを裏付ける映像もあり、現場は混乱に陥る。町では犯人に対する異常な反感が渦巻き、やがて新たな悲劇が…。

同時刻に同一人物が別の場所に出現することは可能か。どちらにも物証となる証拠が存在するのは何故か。テリーを断罪した刑事ラルフが、自らの正しさを証明するための捜査を、テリーの弁護人が彼の無実を証明するための捜査で前半は展開される。
調べれば調べるほど深まる謎、そして追い詰められていく少年を失った家族と「犯人」とされた男の家族。
この家族達の心理描写が上手い。後半、ファインダーズキーパーズに登場するホリーが調査員として現れてから話が真相に向かって一気に進んでいくんですが、繋がりが分かってから振り返ると前半部に既に伏線が張られており、ミステリとしても綺麗にまとまっている。……犯人の正体を除けば。

話は面白いし、展開はスムーズ。キャラも好感が持ててストレスなく読み進められる。とても面白いのだけど、ミステリとしてはここまでオカルトが関わってしまうと禁じ手だと感じてしまう。それでもなんでもありにはなっていない分、ミステリとして収まっているのだけど。

# by yamanochika | 2021-08-09 08:02 | 海外ミステリ