樹脂

樹脂

エーネル・リール著 ハヤカワノベルズ刊

デンマークの僻地に住む一家。ほぼ自給自足で暮らす一家の暮らしは、何年かぶりに訪ねてきた祖母によって揺り動かされ、やがて破滅へと向かっていく。愛する者を突然失った経験から、男は変化を受け入れることが出来ない。子供の頃に父に見せられた、樹脂にくるまれ何年もたった虫のように、周りのものを留めることに執着していく。
妻を得、新しい家族が出来たことで好転するかに思われた男の生活は、新しい悲劇によって閉鎖的な方向に進んでいく。

彼の、彼の家族の樹脂にくるまれたような生活の様子が幼い娘の視点から、やがて男の家族や他の人間の視点から語られていく。おかしい、と切り捨てることは簡単だが、衝撃的な場面から始まった物語から目が離せない。語り口が上手く、まだ幼い少女の視点が入ることで物語に爽やかさがあり、男の悲劇をじっくり読ませる内容になっている。
全てが終わった後に、ひっそり怖さが残るのもいい。

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# by yamanochika | 2017-12-13 23:14 | 海外ミステリ

王とサーカス

王とサーカス

米澤穂信著 東京創元社刊

新聞社を辞めてフリーのジャーナリストとなった太刀洗万智は、取材のため訪れたネパールで国王一族の殺害事件に遭遇する。

2001年にネパールで起きた王族殺害事件を背景に、ジャーナリストとして何を書くのか、なぜ書くのかを問いかけた作品。作中で起きた別の殺人事件の真相を主人公が突き止める描写はあるものの、作品の主題はジャーナリズムとは何か。記事にする為に取材対象をサーカスのような見世物として扱って良いのか、といった所に行き着く。
後味の良い作品では無いけれど、何かは残る話だった。

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# by yamanochika | 2017-11-05 06:35 | 国内作家

ジュリー・ベリー著 創元推理文庫刊

10代の少女7人が在籍する小規模な寄宿学校で、日曜日の夕食中、校長先生とその弟が突然息絶えてしまう。それぞれの事情から家に帰りたくない生徒達は事実を隠ぺいし、学校生活を続けようと奮闘するのだが…。

19世紀末のイギリス、良家の子女の為のフィニッシングスクールが舞台。冒頭に作中には登場しない、生徒たちに関係のある人物の紹介があり、まずはこの学校に在籍することになった女生徒たちの人となりが読者に示される。彼らの事情や性格が提示された状態でショッキングな事件から物語の幕が開けるわけですが、死を隠ぺいしようとしてもなかなか上手くいかず、次から次へとやってくる訪問客にあたふたしつつ、とっさの機転を利かせてピンチを切り抜けいく様が面白い。
最初の舞台設定からブラックユーモアかと思いきや、10代の少女らしくパーティや身近な男性に心をときめかせたり、少女たちのキュートさが全面に出た冒険小説といったところでしょうか。伏線や小道具もばっちり揃えられ最後は探偵役を務める少女により事件の真相が暴かれるので、推理小説としてもよく出来た作品。

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# by yamanochika | 2017-10-20 23:41 | 海外ミステリ

ヨン・ヘンリ・ホルムベリ編
ヘレンハルメ美穂・他訳
ハヤカワ・ミステリ刊

スウェーデン作家による短編ミステリ17篇を集めたアンソロジー。
冒頭に編者によるスウェーデンミステリの歴史、また本アンソロジーに収録された作家の簡単な紹介があり。収録されている作品は様々ですが、おそらく一番の目玉は「ミレニアム」シリーズの著者スティーグ・ラーソンによる短編になるのでしょうか。
短編を集めたということで正統派のミステリよりも、少しひねった作品やホラーのような味わいの作品も多いですが、個人的に一番満足したのはヨハン・テオリンによる「乙女の復讐」。エーランド島四部作では漁師を引退し、年老いた姿で登場するイェルロフがまだ現役時代の話。シリーズ中で亡くなった人も元気な姿で登場し、シリーズファンとして感慨深い。


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# by yamanochika | 2017-10-20 23:18 | 海外ミステリ

霧の島のかがり火

霧の島のかがり火

メアリー・スチュアート著
論創社刊

ロンドンでファッションモデルをしているジアネッタはエリザベス2世戴冠式の人混みを避け、休暇でスカイ島を訪れる。島では数週間前に儀式殺人を思わせるような殺人事件が起きており、事件現場となった山はどこか不穏な雰囲気が漂っていた。そんな中再び事件が起き…

ロマンティックミステリと言うか、サスペンス。ヒロインのキャラクター造形や山に漂うどこか神秘的な雰囲気が最後まで損なわれないのはいい。ある意味山や島の雰囲気が事件に密接に関わっているので、背景込みで楽しむ作品だと思う。

作家さんの名前が歴史上の人物と被っているので驚きましたが、本名だそう。最近映画化されたメアリと魔女の花の原作者でもあるんですね。見てみれば良かった。

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# by yamanochika | 2017-10-08 18:04 | 海外ミステリ

フロスト始末

R・D・ウィンクフィールド著 創元推理文庫刊。

フロスト警部シリーズ最終刊。
買ってから読み終わるのが勿体なくて1ヶ月位寝かせていたんだけど、読み始めたらあっという間に読み終わってしまった。

相変わらず他の署の応援に人員が割かれ人手不足なデントン署。そんな中で少女の連続強姦事件や、ローティーンの少女が行方不明になる事件が勃発。更にスーパーへの恐喝事件など次々に事件が起きる中、マレット署長がフロスト警部を追い払う為に他の署から呼び寄せたスキナー主任警部により、デントン署からの異動を余儀なくされたフロスト。事件捜査とフロストの運命や如何に。

今作では若かりし頃の妻と自分を思い出し涙ぐんだり、老いを感じるシーンも多くどことなく侘しさの漂うフロスト警部。
作中で同時進行に起きている事件が終盤に収束していく繋がりの上手さは健在ではあるものの、作中のキャラがエネルギッシュで、若さがあったフロスト日和などと比べるとエネルギー不足は否めない。
それでもなお、どれだけ泣き言を言っていても事件を解決するために駆け回るフロストの姿に滲み出る人間味がこのシリーズの最大の魅力であり、味わいだと思う。そしてもう1つの味である下品なユーモアも健在。
シリーズファンなら頭のてっぺんからつま先まで楽しめる作品になっている。



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# by yamanochika | 2017-08-14 22:10 | 海外ミステリ

書架の探偵

ジーン・ウルフ著 ハヤカワノベルズ

22世紀のアメリカが舞台のSFであり本格ミステリ。

図書館の書架に住まうE・A・スミス。ミステリ作家として活躍していた彼は、生前の彼の脳をスキャンし作家の記憶と感情を備えた複生体であり、図書館の蔵者として所蔵されている。
そのスミスの元へ、コレット・コールドブルックと名乗る若い女性が訪れる。彼女の父と兄が相次いで亡くなり、兄の死の直前にスミスの著書「火星の殺人」を渡された彼女はこの本に兄の不審死の謎が隠されているのではないかと考えたのだ。
スミスは彼女に借りだされ、推理小説家としての知識を用いながら彼女の兄の死の謎に迫っていくが

人間でありながら、人間ではなく物として扱われ生まれる前から機能の制限がされているという複生体の設定がなかなかエグい。エグいもののそこを前面には押し出さず、ミステリとしての謎解きが主体。
理論的に謎を解き明かしていくスミスの言動と、彼に課せられている制限や、複生体の置かれている状況、悲哀が上手く絡まっていて面白い。
続編が企画されているそうですが、ぜひ読んでみたい。


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# by yamanochika | 2017-07-30 19:18 | 海外ミステリ

エリザベス・ウェイン著 創元推理文庫刊

第二次大戦中のフランスでドイツ軍の捕虜となったイギリス人の特殊作戦執行部員の女性が、尋問を止める代わりにイギリス軍の情報を漏らすように強要される。彼女が書いた手記は何故か親友である女性飛行士マディの日々が小説のように綴られていた。

本書は二部構成になっており、第一部では捕虜となった女性の手記、第二部はその手記にどんな意味が隠されていたのかがわかる展開になっています。後書きその他で第一部には仕掛けがあると書かれている通り、第二部を読んでから第一部を読み返すと、彼女の頭の良さ、何を隠し、何を言おうと思っていたかが分りもう1度読み返したくなる。
捕虜となった彼女の身に起きたことは悲惨の一言に尽きてしまうんですが、彼女の手記の中ではマディとの友情、飛行士を目指すマディの物語が生き生きと語られており、戦争が無ければ出会わなかったかもしれない上流階級の女性クイーニーと小売店の孫娘マディの友情物語としても楽しめる。


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# by yamanochika | 2017-07-23 22:59 | 海外ミステリ

凍った夏

ジム・ケリー著 創元推理文庫刊

公営アパートで肘掛椅子に座ったまま凍死した男が発見された。自殺の可能性が高いとされたが取材のため訪れた新聞記者ドライデンは疑問を覚える。死んだ男は金に困っていたが、部屋のコイン式電気メーターには硬貨が補充されたばかりだった。自殺する人間がそんな行動を取るだろうか。やがて死んだ男が、今話題になっているカトリック教会の孤児院で起きていた児童虐待事件の証人の一人だったことが分かる。何か関連があるのか。調査を進めていくうちに、新たな謎が浮かび…。

ドライデンシリーズの4作目。大寒波が訪れた冬が舞台でありながら、物語の中核を占めるのは夏の話。事件の捜査を進めていくうちに、驚くべき事実が明らかになるのですが、単に殺人事件というよりも子供たちの未来が殺されてしまったのだと思うと切ない。大した問題が無かったと思うのは事件を起こした人間だけで、そのせいで将来も希望も失われた人たちがいるというのが大きなテーマで、だからこその邦題なのかと思う。ドライデンの妻、ローラの状態が回復するにつれ新たな問題が起こされてドライデンが更に追い詰められていくのもまた切ない。

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# by yamanochika | 2017-07-23 22:43 | 海外ミステリ

バルコニーの男

マイ・ジューヴァル/ペール・ヴァールー著 角川文庫刊

刑事マルティン・ベックシリーズの新訳版。シリーズ3冊目。

ストックホルム中央の公園で女児の遺体が発見された。さらに2日後に別の公園で新たな少女の遺体が発見されストックホルム市民にはパニックが広がる。事件の手掛かりは乏しく、3歳の男の子の証言と、強盗犯の記憶のみ。捜査は行き詰まりをみせるが…。

冒頭に、おそらく犯人と思われる人物の視点が入り、丹念に事件について語られていく。夏であり、元々発生していた連続強盗事件に加え、連続少女殺人事件がおこり警察の捜査は難航する。
この、事件について派手な展開があるわけではない、地道な捜査とそこから広がる突破口、決して円満とはいえない刑事たちのやり取りがたまらなく面白い。最後の犯人逮捕の場面。明確に書かれてはいないけれど、前後の事情を察するとぞっとするような怖さがある。この過剰さがないところがいいんだ。

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# by yamanochika | 2017-07-23 22:33 | 海外ミステリ

日々読んだ本の記録。他映画、漫画等の感想などあれこれ。感想はネタバレありです。ご注意下さい。
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