パトリシア・モイーズ著 早川ミステリ刊
第二次大戦中、ディムフィールド基地で勤務していたエミー。十数年ぶりにかつての仲間との集いに出たエミーは同じ基地に勤務していた元エースパイロットで、偵察に出たまま消息不明となったボウ・ゲストの妻バーバラから、ディムフィールド基地と彼についての伝記を書く下調べをして欲しいと頼まれる。嫌だと言い切れずに引き受けてしまったエミー。ボウ・ゲストは彼女の密かな憧れ、初恋の人でもあったのだ。しかし彼の過去について調べる内に、彼が消息不明となった事故の不審さに気付いていく…。
ヘンリ・ティベット主任警部の妻、エミーが主軸となる話。当時青春真っ直中で、恐ろしい事もありながら輝いていた人々が今は…という各人の変わりように侘びしさを感じる。冒頭文として掲げられる「ジョニーのために」といい、何となくノルスタジックな雰囲気。全体を通して一番印象に残ったエピソードはいけすかないじいさんが自分がした善行だけは隠していた部分。話しているのを読むだけで嫌な気持ちになるような年よりなんだけど、この老人にとって自分がやった善行は恥ずかしくて隠しておきたいことなんだ、というのに人間は一筋縄ではいかないな、と感じた。
さすがに手慣れててよく纏まっているし、しんみりした読後感も悪くない。ただ、エミーが何度も同じ失敗を繰り返しヘンリに心配をかけているのがやや納得いかない。普段の話ではそんな行動は取らないのに、彼女もノルスタジックな雰囲気に呑まれてしまったの?