人気ブログランキング | 話題のタグを見る

泥棒が1ダース


ドナルド・E・ウェストレイク著。ハヤカワ文庫刊

ハヤカワ文庫の「現代短編の名手達」という海外ミステリ作家の短編全集の3冊目として、天才的犯罪プランナーにして世界一不運な泥棒ドートマンダーの初の短編集が刊行された。ハヤカワ・ミステリ・マガジンの4月号で夏に短編集が出ると聞いてからずっと待ってたんだけど、やっぱり面白い。

作家自身による序文「ドートマンダーと私」で収録作品とドートマンダーシリーズについての解説付き。収録作品は全11編。長編と違って基本登場人物はドートマンダー1人か、仲間として親友のケルプが出てくるのみがほとんど。ピリっとしたオチが効いた小粒なネタが多い。

古典的な泥棒として地下道から穴を開けて金庫室に入ったドートマンダー達がたまたま同じ銀行に押し入っていた銀行強盗に人質に取られる「悪党どもが多すぎる」は発端からオチまで最高に笑える。ドートマンダーが我が身を救う為に探偵役を務めることになる「真夏の日の夢」、故買屋のアーニーが出てくる二編も楽しい。特に「今度は何だ?」は不運に見舞われながら、そのお陰でもっと大きい不運から逃れているようなドートマンダーが災難に見舞われまくる話ながら、何だか「クリスマス・キャロル」を読み終わった後のような清々しい読後感がある(というのはいいすぎか?)。

最後の一編は映画化された際にドートマンダーに付けられたジョン・ラムジーという名の泥棒が活躍する「悪党どものフーガ」。ジョン・ドートマンダーとその友達達に何となく似た感じがする悪党達が出てくる。これ、最後の〆のあと、銀行員に何が起きたかを想像すると、怖いような、笑えるような、割合ブラックな味わいがたまらない。

本年中に長編1冊が翻訳予定とあって、こちらも楽しみ。

余談ですが、私が見たことがあるドートマンダー映画はテレビでやっていたのを録画した「ホット・ロック」のみ。話自体は泥棒が出てくるおしゃれなコメディになっていてB級映画としては悪くなんですがドートマンダーのロバート・レッドフォードは恐ろしいほどイメージに合わなくてミスキャストだった。やっぱりドートマンダーはもっとうらぶれてどんな不運に見舞われても当然だと思っているような悲観的な顔をした情けない感じの中年親爺でないと。
by yamanochika | 2009-09-06 18:22 | 海外ミステリ
<< マギの魔法使い エメラルドは逃亡中 敵は海賊 短編版 >>