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クシエルの矢3 森と狼の凍土

ジャクリーン・ケアリー著 ハヤカワFT文庫刊

スカルディアから何とか生還し、亡くなった祖父の跡を継ぎ女王となったイサンドルの保護を得たフェードル達。しかしスカルディアの急襲と玉座を巡る陰謀からテールダンジュを守るため、休む間もなくアルバへと向かうのだが…。

フェードルの性癖はともかく、国内の叛乱分子を避けながらアルバへ向かう道中の駆け引き、そしてイサンドルの婚約者でもあるアルバの王ドラスタン助け、簒奪者の手からアルバを奪還する戦い、早瀬の主との知恵比べやテールダンジュを巡るスカルディア人との戦争等、完結巻は息を継ぐ間もないほどの急展開の嵐でした。元々1冊本の原著が3分冊されているので、作品内でも一番の山場があるから当然といえば当然なんだけど、これは1冊で一気に読んでみたかったなー。ものすごく面白かったので、一気読みしたら更に嵌りそう。

これまでも、天使の血を引く、というのが伝説ではなく事実として現れている世界なんだけども、今回出てきた海峡を支配する早瀬の主の存在で更に不思議な力がこの世界では実在しているというのを実感。なぜツィンガンの男がドロモンドを使うのが禁忌とされているのか、それがここに繋がってるんだ、というのが分かった瞬間にぞくぞくした。ギリシア神話を思わせる内容なんだけれど、ヒアシンスが今まで取ってきた行動、選択が、ここに至ってしまうものだったのかと思うと感慨深い。

フェードルの真骨頂が発揮されたのは、やはりヴァルデマール・セリグとの戦いの為、イシドールをたきつけて味方につける場面でしょうか。その後のクシエル様の導きを受けた砦行きや、そこに現れたジョスランの戦いなど、最終局面なだけあって、印象深い場面が多い。

陰謀の首謀者であったメリザンドは逃亡し、陰謀の種が残された状態で続いているので続刊が気になるところ。後書きには載っていませんでしたが、12月から第2巻が3分冊されて刊行予定だとか。原著は既に6巻まで発売されているので、このまま順調に発売されることを祈っています。

冒頭の地図を見ると、実際のヨーロッパがギュッと凝縮されたような世界観で、テールダンジュは古代ギリシア文化の流れを汲みながらも位置的にはフランス+ネーデルランド、スカルディアは主神がオーディンなのでドイツ北部+北欧、チェルディッカ連合国はイタリア、アルゴニアがスペイン。そして今回舞台となるアルバはブリテン島とアイルランド。アルバではブレホンなんて単語が飛び出して、修道女フィデルマシリーズを思い出しました。そんなわけで母系社会なんですね。色々な文化、種族が書き分けられているのが素晴らしい。
by yamanochika | 2009-10-28 01:19 | SF・FT
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