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魔使いの戦い 上・下





ジョセフ・ディレイニー著 東京創元社刊

トムが魔使いに弟子入りして2年目、魔使いはついにペンドルの魔女集団を片づける決意をする。元弟子で友人のストックス神父によると、長年反目しあっていたペンドルの3つの魔女集団が何かの目的の為に一つにまとまり始めているようなのだ。その矢先、兄一家が受け継いだ農場に戻ったトムは、何者かが農場を襲い、トムが受け付いた母の3つのトランクを奪っていった事を知る。兄一家も共に連れ去れててしまったらしい。どうやらペンドルの魔女が絡んでいるようなのだが…。

魔使いは魔法使いとは違い、魔物や幽霊を見ることはできても、悪霊や悪意を持つ魔女と戦う為に使うのは長年の知恵と魔よけの道具だけ。その分彼らの戦いは常に生命の危険に晒されながら、血なまぐさいものになるのですが、今回もダークな雰囲気満点。後半は常に暗闇の中にいる気分でした。

「善良な人の善良な決断」とはいうけれど、お互いの道が違いながらもその道が尊重できるストックス神父とトムのやり取りは爽やか。その善良さがあるから最後の、ストックス神父との会話に説得力があるのかも。魔女が作りだした使い魔や、人殺し専門の魔女グリマルキンも怖かったけれど、一番の恐怖は部屋にこもったトムの自問自答。自分の内面にある影との対話は、一番身にこたえる怖さだと思います。

思春期にさしかかり、アリスの他にもトムを愛する少女が出てきます。邪悪で恐ろしい魔女とはいえ彼女はトムに対しては嘘をついたり騙したりすることはなかったのに、トムは彼女を利用し嘘をついた。邪悪で恐ろしいのは自分の方なのではないか、というトムの疑問。自分のやった間違った事が何より自分を傷つけるのは善良だからなのではないかと思うのですが。

それでもアリスとの最後のやり取りは、1作目から読んできてようやく、と思えるほのぼの和む場面でした。これから先の彼らがどうなるのかが気になる。魔女ではなかったけどペンドルの魔女一族の血を引くアリスはどこまで魔女にならずに生きていけるのか、ティブの予言は当たってしまうのか、とか。

しかし今回ジョンじいさんは影が薄かったなあ。
by yamanochika | 2010-04-27 01:18 | 児童文学
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