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怒矮夫(ドワーフ)風雲録 闇の覇者

丸楠早逸著 ソフトバンククリエイツ刊



怒矮夫族の守る5つの山に囲まれた安息之地で平和に暮らしていた人々は、約千年前に、怒矮夫第五部族が滅ぼされて以来、北にある巌の門から流れ込んできた冥府からの侵攻に悩まされいた。そんな中、孤児として魔導師ロト=イヲナンに育てられた本好きの怒矮夫トゥングディルは、イヲナンに命じられ、師の高弟へ届け物をするために、魔界イヲナンダルを離れ安息之地を旅する事に。道程の途中で初めて会った同族、怒矮夫第二部族の猛者望遠兄、望遠弟と行動を共にする事になるのだが、彼らは恐るべき勢いで冥府の侵攻が進んでいる事を知る。安息之地を救うべく、旅を続ける三人。彼らは安息之地を救う事が出来るのか?

日本人が変な当て字をしているのかと思ったら著者は正真正銘のドイツ人。日本の翻訳者が種族名やドワーフの名前を漢字で当て字したら面白い雰囲気になるんじゃないか、と提案した所原作者も気に入って快諾。著者の名前までこんな事になったそうです。ちなみに男のドワーフは怒矮夫、女のドワーフは怒矮婦。原作者のサイトではこの当て字Tシャツやパーカーも売られているらしい。

で、このドイツ生まれのファンタジー。何となく指輪物語やブリディン物語を思わせる架空世界安息之地が舞台。安息之地を脅かす冥府の王と漢義あふれる怒矮夫達との戦いを描いた作品となっています。既存作品と違うのは、妖枝流(エルフ)に限らず、出てくる種族はそれぞれ神の被造物で、妖枝流に対抗する種族として闇の神が作った妖魔(アルプ)という存在がいることでしょうか。この作品では怒矮夫たちと仲が悪い妖枝流よりも、たちの悪い妖魔の方が目立っている位。

冥府からやってくる小鬼や大鬼、彼らを指揮する冥府の王ノドヲンとの戦いに、怒矮夫たちの各部族の争い、特に他の怒矮夫を敵視する第三部族の存在が絡み怒涛の結末へとなだれこんでいく。人間に育てられた為本好きとなり、物静かな主人公と彼の旅の仲間たちの人情あふれるやり取りや、怒矮夫部族間の駆け引きも面白い。旅の仲間は怒矮夫族だけでなく、武闘派の女魔導師や、調子のいい人間の旅芸人など様々。最初は名前が読みにくくて閉口したけど話が進むにつれて、話の面白さにつられて気にならなくなってきました。何より名前で怒矮夫族と他の種族の区別がつくしね。

指輪物語と並べてブリディン物語を出したのは、主人公が孤児で大賢者に育てられた、という類似点があるからですが、冥府の支配下の土地で死亡すると魂を支配されて屍鬼としてよみがえり彼らの兵隊となる、という点もブリディン物語と似ています。その設定を逆手に取ったような展開もあり、こういう使い方もあるのか、という驚きが。

戦闘や死亡場面は意外に残酷描写がきついのでちょっと注意。しかしこれだけ蹂躙された安息之地が復興するのにどれくらいかかるのか心配だ。

なお本国ではすでに四作目までが刊行済。本書で示唆されていた西からの恐るべき侵略者が登場したり、安息之地に安息が訪れるのはまだまだ先の事になるようです。日本でも続刊、刊行されないかな。
by yamanochika | 2010-06-26 13:37 | SF・FT
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