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レクイエムの夜

レベッカ・キャントレル著 ハヤカワ文庫刊

新聞記者のハンナは、警察の<身元不明死体の廊下>で弟の水死体写真を発見する。美貌の女装歌手として愛されていた弟を殺害したのは誰か。ある事情から警察に弟の身元を告げる事が出来ないハンナは自分で殺人犯を探り始めるのだが、そこにハンナの息子を名乗る子供が現れて…。

ナチス政権成立目前の1931年ベルリンを舞台に繰り広げられるミステリ。

まず目を引くのは、仕事をしていても満足に食べるものすら買えない、そもそも大勢の失業者が出ているドイツの不況ぶり。そしてその事がナチスへの支持を後押しし、ユダヤ人への差別運動や同性愛者排斥運動が起きつつある実情。不況な中でもまだ人々が普通に生活している時代なんですが、それでも徐々に抑圧へと向かう暗い雰囲気が漂っている。その中で差別への反感を抱きつつ、死んだ弟の為に動くハンナの強さはひときわ美しいのですが、何より魅力を感じたのは突然現れた「息子」アントンとの関係。

第一次大戦で婚約者を失い自活しているハンナ。最初はほんの一時のつもりで「息子」を預かるのですが、徐々に本当の子供のように思えてきて、二人の間に強い絆が芽生えてくる。愛情に飢えているアントンがハンナに見せる様子、二人の親子愛が素晴らしくて、最後の方は手に汗握って読んでしまった。もちろん弟を殺害したのは誰か、というミステリの方もきちんと書かれているのですが、一番上手く書かれているのは何かと言われたら、時代の雰囲気ではないでしょうか。

エルンスト・レームやSAってのは本当にこういう人たちだったの?というのが疑問で読み終わったあと少し調べてみたんですけど、本当にそうだったんだーってのにびっくり。SAが男色傾向が強かったのもあってSA排除後に同性愛者排斥運動も強くなったんですかね。

キャントレルさんはこれがデビュー作。2作目もベルリンを舞台に、ハンナが活躍するらしいのでこれもぜひ紹介して欲しい。
by yamanochika | 2011-01-09 12:38 | 海外ミステリ
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