ジョーン・エイキン著 富山房 刊 「ダイドーの冒険」シリーズ7作目の主人公は6作目に登場したダイドーの腹違いの妹イス。もう一人の姉、ペニーとブラックヒースの森で暮らしているイスは、狼に追われている所を助けたホージアおじさんの頼みで、家出した従兄のアランを探しにロンドンへ行く。ロンドンの町ではたくさんの子供が姿を消していた。その中には従兄のアランやリチャード王の息子デヴィッドまで入っていた。どうやら北の地に住む<黄金王>が子供たちを集めているようなのだが…。 もしもイギリスの王さまがスチュアート家のままだったら…?というIFの世界のイギリスを舞台にしたこのシリーズ。これまで話の中心だったスチュアート家を倒そうとするハノーヴァー党との戦いには一段落がついた後なだけにどんな展開になるかと思っていたら、シリーズ中でも一番の重い展開が待ってた。 お話の中で、悪夢が具現化したように、子供たちは劣悪な環境の炭鉱や鉄工所で働かされる。もちろん100年以上前のことですから、どの子供もほとんど他の場所で労働していた子なんだけれど、今までの労働環境が天国に思えるよな惨い環境が彼らを取り囲む。もっともエイキンさんの語り口調は、 淡々とした事実として書き記されていて、悲惨さを露骨に強調した話にはなっていない。それでもこの話が非常に重く感じるのは、ここに書かれているのはフィクションだけど、実際にこういう環境で働かされていた子供たちが存在していたという事実があるからなんですよね。子供に限らず、同じような環境の人たちが今までも、今でも存在するわけで、その姿が重ねあわされて、より悲惨さを感じてしまう。 この重い話に、一段と重たさを持たせているのがデヴィッドだ。彼の名前や彼が成したことは何度も語られるのに、本人は作中に一度も登場しない。重たさを持たせると同時に、その重たさの中で彼の行動が一種の清涼剤のように感じる。彼の行動が語られていって、やがては伝説になっていくんだろう。会ったことが無いのに、ものすごく魅力を感じる人物像で、彼の存在がこの作品の魅力を引き立てているように思える。
by yamanochika
| 2011-01-24 22:18
| 児童文学
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