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陸軍士官学校の死 上・下



ルイス・ベイヤード著 創元推理文庫刊

引退した警官ガス・ランダーは、ウェストポイント陸軍士官学校の校長から呼び出され事件の捜査を依頼される。自殺した士官候補生の遺体が盗まれ、数時間後に発見された時には心臓がくりぬかれていたというのだ。捜査の過程でランダーはある士官候補生と知り合い、彼を助手として任命する。その候補生の名はエドガー・アラン・ポーといった……。

ポーがウェストポイント陸軍士官学校に8ヶ月間在籍していたという逸話を元に、若き日のポーを探偵役に迎えたミステリ。ランダーの回想録という形で書かれており、基本的にはランダーの主観からら書かれた物語が展開している。そこに助手役としてポーがランダーへ宛てた報告書の手紙がポー視点の物語として挿入されており、文体がポーの作品を思わせる美文調。

最初のうちは、ベテラン捜査官によるかっちりしたミステリとして出されたものが、徐々にポー作品を思わせるような、陰鬱さ、耽美的な雰囲気を醸し出していく。終わってみると何ともいえない苦味と死への憧憬が込められた作品でした。最後の真犯人との対決は、発想の逆転で物語がひっくり返るような衝撃があるのに、それによって更に陰鬱になっていくのがミソ。読み応えがあり、繊細さの際立つ作品なんですが、読後になにか明るい話が読みたくなってくる。

ポーについて詳しい知識は必要ありませんが、知っている人が読むとなお楽しいのかも。
by yamanochika | 2011-05-02 00:27 | 海外ミステリ
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