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モーダルな現象 桑潟幸一郎助教授のスタイリッシュな生活

奥泉 光著 文藝春愁社刊

東大阪にあるマイナーな女子短大の助教授で国文学を教えている桑潟幸一郎は、研修館という出版社から依頼を受け、太宰治と同時代に存在した無名作家溝口俊平の未発表原稿について解説を書く。その事からやがて奇妙な出来事に巻き込まれていくのだが…。

かなり駄目な大学助教授視点で展開する、アトランティスのコインをめぐる時間と場所を超えて展開するSFパートと、もう一人の主人公、フリーライター兼ジャズ演奏家の北川アキを主人公とする本格ミステリパートの2つが絡みながら展開する。

桑幸のパートを見ていると昔テレビで見た吸血鬼映画の、ヒロインが精神世界で白服の男たちに捕まって手術台に載せられて肉体を吸血鬼に乗っ取られるモノクロ場面を思い出した。桑幸が駄目な人間として表現されているので、わけのわからないものに追い詰められていく恐怖と滑稽な笑いとが入り混じった不思議な世界になってるんですが。時空も空間も移動しているので、現実に起こっている事なのか、幻覚なのかが判然とせず、読みながらもやもやが続く。結局彼の行動があの結末に繋がったのか、それとも過去において彼と同様の行動をとった人物がいたのか、その辺が謎のまま終わるんですよね。読後感は悪くないんだけど。

北川アキパートは、ミステリマニアで桑幸と同じく溝口俊平の本の関わった北川アキが素人探偵を気取って元夫で出版社勤務の諸橋倫敦を誘って事件の真相に迫っていく、いわゆる現実パート。食い意地が張った人がヒロインなので、桑幸パートに比べるとずいぶん美味しそうなものを食べてるなーというのが第一印象。そして探偵を気取って、といいつつ北川アキ視点で書かれているということは、北川アキがワトソン、倫敦がホームズってことに。

話はぐいぐい進んでいくし、途中で雑誌記事やコラム、新聞記事が挟まっている手法も悪くない。ボリュームは凄いけど読みやすくし、なかなか面白かった。
ただ、タイトルの「スタイリッシュな生活」ってどの辺がスタイリッシュだったの?
by yamanochika | 2012-01-01 03:55 | 国内作家
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