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吊るされた女



キャロル・オコンネル著 創元推理文庫刊

マロリーの相棒、ライカー刑事の情報屋だった娼婦スパローが吊るされた状態で発見される。美しい金髪は切り取られ口に詰め込まれ、周囲には虫の死骸が散らばっていた。現場に駆け付けたマロリーは連続殺人だと断定する。かつて、マロリーの養父ルイ・マーコヴィッツが気にしていた事件と現場の様子が類似しているというのだが…

ニューヨーク市警の刑事、キャシー・マロリーを探偵役としたシリーズ。久しぶりの続刊。探偵役といってもマロリー本人は「氷の天使」と呼ばれるほど他人に自分を見せない人間で、時に人間的な感情を理解しているのかと疑われる事もあるようなヒロイン。どちらかというとアンチ・ヒーロー的なマロリーに対し、感情的な動きは主彼女を取り巻く人間が担うんだけども、この辺のバランス加減が難しい。あんまりマロリーが酷いと、ただ冷たいだけの人間に見えちゃうんですよね。今回はそのバランスが良くて、マロリーと周囲の人たちのやり取りも楽しめた。

事件は、マロリーが予言したとおり、連続殺人の様を帯びていくんだけども、ここで捜査されるのは現在起きている事件と、過去に起きたルイ・マーコヴィッツが自分の担当ではないながら気にかけていた事件。というのも現在の事件が起きた背景には過去の未解決に終わった事件が濃密に絡んでいるからで、過去の事件を追う事は、謎めいたマロリーの過去をまた一つ剥いていくことにもなります。そしてマロリーがどうしてマーコヴィッツに引き取られることになったのかが分かる流れが素晴らしいのです。

事件の解決はほろ苦さが残り、明日の朝には惨い現実が待っている。でも、終わりの光景には遠い場所から帰ってきて、家の窓に小さな温かい明りが見えた時のような、温かさを感じるものでした。
by yamanochika | 2012-07-29 23:31 | 海外ミステリ
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