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喪失

モー・ヘイダー著 ハヤカワミステリ刊

駐車場で起きたカージャック事件。車の後部座席には少女が乗っていた。当初は単純な窃盗事件を思われていたが、いつまでたっても少女が解放されない。やがて過去に類似したカージャック事件で子供が誘拐されかかっていた事が分かる。犯人の目的は車ではなく少女だったのか?捜査の指揮を執るキャフェリー警部は事件捜査に総力を上げるが、犯人は捜査の裏をかくように被害者の家族を挑発する行動に。

ノンシリーズかと思っていたらシリーズものでした。キャフェリー警部シリーズの5冊目だそう。もっとも前の話を読んでいなくても話は楽しめるので大丈夫。

車目的の窃盗事件かと思いきや…ってところで話が広がっていって、被害者となった家族の葛藤に繋がっていく。子供を一人失っただけではなく、家族が壊されていく感じがリアル。キャフェリー警部もまた子供の頃に小児愛好者により兄を失った経験を持っており、彼の家族は兄を失ったことから永遠に立ち直れず、成人した後は両親に捨てられて今どうしているかも分からない状態。作中には他にも娘を失ったホームレス、ウォーキングマンが登場。そんな彼らから、家族が崩壊することの悲しさ、喪失感が伝わってきて、侘しさが漂う。

失うだけではなく、続いていくもの、得るものもまたあるわけで、喪失と同時に再生の物語でもあるんですね。失ったものは戻らないけれども。キャフェリーは同僚の女性刑事との関係で、彼女がしたことについて悩んでいて、作中を貫くもう1本の柱になっているんですが、最後になってそれが新しい関係となって芽吹いていく。後味悪いままで終わらせないのが見事だと思う。シリーズものらしいといてばそうなんですが。
by yamanochika | 2013-04-14 13:03 | 海外ミステリ
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