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東方の黄金

ロバート・ファン・ヒューリック著。ハヤカワ・ミステリ刊。

前任の知事が殺害された平来の知事に自ら志願し、初めての任地に赴く若き県知事、ディー判事。従僕である供警部のみを従え、道中で襲ってきた緑林の兄弟を気取る任侠二人を配下として従え辿り着いた平来の地では、奇妙な出来事が起きていた。密室で毒殺された前知事の幽霊の出現、結婚したばかりの若妻の失踪。官吏の一人も行方不明となっており、最近は人食い虎が町近くに出てくるという。早速、捜査に臨むディー判事だったが…。

後に名探偵として名をはせる唐代の県知事、ディー判事の最初の事件。実際にはこれが一番最初に書かれた作品で、長年絶版だったものの復刊・新訳になるのですが、経験を積んだ老練なディー判事を見慣れていたので、まだ物なれない様子のディー判事の姿が新鮮でした。後、チャオタイと雨龍のエピソード。この話を読んでから「南海の金鈴」を読むと更に感無量です。

密室での毒殺や人妻の失踪、幽霊の出現のほぼ全てに論理的な説明があり、推理物としての楽しさも十分あるのですが、歴史ものとしても十二分似楽しめる出来映え。朝鮮や倭国との戦争や、仏教と儒教の対立などが背景として書かれており、そういえばこんな頃にあったんだなーと日本史をふりかえってみたり。白い民族衣装を着て船に乗り込んだ朝鮮娘、ユースーの姿が印象的。

前知事が残した犯人を示唆する手がかりや、冒頭のディー判事の友人との別れに至るまで、きっちり考えぬかれてあって、後から振り返るとなるほど、と感心。論理的な話なので、一番最後のエピソードが心に残る。

今回は、更に著者によるシリーズ紹介、ヒューリック氏の息子による父との思い出などが再録されており、ヒューリック氏の人柄に触れることも出来ます。

しかし、この方、文人としては中国でも失われていた明時代の文化を再発見。評価の高い論文を書いたり、著書の挿絵も自分で描かれているし、小説家としてももちろん才能を発揮、本業のオランダ外交官としてはアジア地域の専門家として大使を歴任。何をやっても一流の人っているんだなーという見本のようですな。
by yamanochika | 2007-09-25 00:59 | 海外ミステリ
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