カテゴリ:児童文学( 58 )



ポール・ギャリコ著 創元推理文庫刊

9歳の少年ジュリアンは、水鉄砲を改造して作ったシャボン玉ピストルの特許を取ろうとワシントン行きのバスに乗り込む。その道中で色々な騒動に巻き込まれ…

70年代初頭のアメリカを舞台にしたどこか懐かしい感じがするロードムービーのようなお話。ジュリアンの純粋さと一生懸命さが色々な人に影響を与え、ジュリアン本人は意識することなく彼らの行動を変えていく。特に、高校生カップルが自分たちは本当に相手を愛しているんだと悟る過程がカッコ悪いけど初々しくて、恥ずかしさに溢れているのが可愛らしい。

旅をする事は、成長していく過程に似ているけれどジュリアンにもそれは当てはまる。旅のほぼ初めからジュリアンを助けてくれてたベトナム帰還兵のフランク・マーシャル。正義を信じていたけれど裏切られた彼が、ついついジュリアンを助けてしまい、友人になる。悪ぶろうとして悪くなりきれない彼が、迷いながらも結局ジュリアンの信頼を裏切る、その葛藤。そしてマーシャルを親友として、自分が成りたい大人の男として絶対の信頼を寄せていたジュリアンがマーシャルの裏切りを知って、それでも彼の弱さを許す場面のほろ苦さ。

ほろ苦さがそのままでは終わらずに、胸の温まるエンドに繋がっているのも、それがジュリアンと父親との関係修復に繋がっているのもいい。短い中に人生の欠片が詰まってキラキラしているような、そんなお話です。
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by yamanochika | 2014-06-07 12:43 | 児童文学



ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著 徳間書店刊

ハイ・ノーランドの王室付きの魔法使いが病気で不在の間、家の管理を任された遠縁の本好きの女の子チャーメイン。魔法使いの家は不思議な通路で繋がっていて、目的の場所に辿りつくのも一苦労。更に魔法使いに弟子入りしに来た少年が転がり込んできたり、国の危機を救うために呼ばれたインガリーの魔女ソフィに火の悪魔カルシファー、ソフィの夫魔法使いハウルまでが意外な姿で登場し…。

ハウルの動く城、3作目は2作目で登場したハイ・ノーランド王国が舞台。かつては栄えていた王国も今は国の財政が火の車。税収は以前と変わらないのに何者かが財産を横領しているのか。というわけでソフィ達の登場となるわけですが、今回の主人公は14歳の女の子チャーメイン。

本が好きで女の子は上品な事だけしていればいいという両親の方針のもと、家事のやり方一つ知らない子がいきなり家の管理人に。となれば当然苦労しながら家事をするはめになるんだけれど、電気製品なしに自分がどれだけの家事がこなせるか、考えてしまった。料理はともかく、作中でチャーメイン達がやっているような洗濯方法をこなせる自信がないわ。

家事以外にも、おじさんの家政婦をしていた青い小人一族との対立、崖の上に棲む恐ろしい魔物、何より王国を襲う危機と次々に起こる騒動が楽しく、終盤綺麗に収束していくのが見事。ソフィといいチャーメインといいこの世界の魔女達は魔法を使う時にああいう方法になるのか(笑)。ローティーンの女の子から見たハウル像が新鮮で、なるほどハウルってキラキラしていてカッコいいのかーと感心した。その上あんな姿で現れるって奥さんが怒る無理はない。まあ頼りにはなるんですけれども。

シリーズファンとしては、魔法の家も面白かったし、チャーメインが成長していく姿もキュートだったけど、ソフィやハウル、カルシファーの活躍が見られたのはすごく嬉しかったです。
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by yamanochika | 2013-06-29 23:45 | 児童文学

魔女の物語 魔使い外伝



ジョゼフ・ディレイニー著 東京創元社刊

魔使いシリーズの外伝短編集。文字通り、魔女たちの物語。
若き日のグレゴリーじいさんが登場するメグ・スケルトンや、死んだ魔女の回想、魔女の暗殺者グリマルキンがどうして、どのようにして暗殺者となったか等々色々な魔女たちが登場。

グレゴリーじいさんの回想による「メグ・スケルトン」は本編の補足的な話。あのじいさんにも魔女に一目ぼれされるような若い時代があったことが感慨深いです。魔女であるかどうかは関係なく、メグのような女性はどこにいっても女性とトラブルを起こすだろうし、同性からは嫌われるタイプなんだろうなーと思った。

死んだ甦った魔女が生きていた頃を回想する「ダーティ・ドーラ」。魔女の祭で起きた事件はグリマルキンの物語を別視点で描いたもの。他の2編は悪い魔女よりももっと悪い奴らがいるという話。実際に起きた魔女狩りも酷いものだったから、魔女狩り長官の末路には同情しない。

グリマルキンの話。グリマルキンが魔女の暗殺者になるまでの話。本編の補足というか、トムにとってグリマルキンの協力は有難いものだったけど、グリマルキンにもトムを助ける事情があった、という話の詳細部分。自分が何をするべきか決断し、それを成し遂げる事ができるグリマルキンの実行力が素晴らしい。魔女は恐ろしい邪悪な行動をするけれど、その分実行力がある強い女性が多い気がする。グリマルキンと前任者の命を賭けた戦いはすさまじく、見ごたえ十分。

「アリスと脳食い魔」リジーに引き取られたアリスが最初に迎えた試練。アリスの頭のよさに感心。本編でのアリスがトムより遥かにしっかりしてるのも納得です。

「バンシー魔女」これだけはトムが主役の本編の番外編。トムがアークライトの元で修業していた頃、最後に戦ったアイルランドのバンシー魔女との戦い。本編ではエピソードとして語られていた話ですね。イングランドとはまた違う、アイルランドの魔物、神話体系が不気味でこれから行くアイルランドにもまた不吉な事が起きそうな予感。アークライトも結局死んでしまったしね。
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by yamanochika | 2012-10-29 00:10 | 児童文学

アーヤと魔女



ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著

孤児院から魔女に引き取られたアーヤ。魔法を教えてくれず、こき使うだけの魔女ベラ・ヤーガに魔女の使い魔、黒猫のトーマスと魔女の呪文書に書かれた魔法で対抗する。

魔女よりも、悪魔よりも、小学生の女の子のほうが怖い!って話かなあ。全編カラーで挿絵がきれい。対象年齢はやや低め。アーヤの出自にも謎が多くてこれだけで話が一本作れそう。邦訳ではアーヤ・ツールだけど、英語だとどうなるのかな?原題はEARWIG AND THE WITCHだけど。
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by yamanochika | 2012-10-13 10:24 | 児童文学



ジョーン・エイキン著 富山書房刊

スチュアート朝の王朝が続いている18世紀のイギリスを舞台にしたシリーズもの。今回も主人公になるのはダイドーの妹イス。

北の国の炭鉱から子供たちを救いだしたイスはいとこのアランと一緒に、アランの母が住んでいる故郷を目指す。しかし黒ダイヤ号で着いた故郷ではアランの母親が失踪していた。英仏海峡トンネルを走るようになった汽車で密輸を行っている「愉快な紳士たち」に逆らって、彼らがどこからか連れてきた人質になっている「約束の子供」を連れて逃げ出したらしい。冷たい人々の視線を避けるように、アランの母を探すイス達だったが…

前作同様、全体的には何だか暗い印象。洪水の為にじめじめと湿った雰囲気が残っていて、密輸団に怯える人々は冷たい。最初の方に出てくる話をする登場人物は印象悪い人が多いしね。それでも、洪水で運ばれてきて木の上に取り残された軍艦の家や家での生活は楽しかった。夫に従って沈黙に生きていたアランの母親が、それまでの沈黙をぶつけるように描いた絵の力強さ、素晴らしさは文章で描かれているだけでも目に見えるように鮮やか。児童虐待、大洪水、放射能の影響と扱っているテーマは暗いのだけど、それに負けない位元気な女たちが出てきて光っている。

ただ、大団円は嬉しいんだけど、炭鉱で暮らしていた子供たちだけでなく、世界中の聞こえる耳を持つ人たちと心の声で話せるようになって、という解決方法が何だか安易な気がしていまいちノリきれず。もともとちょっと不思議な、曖昧な部分が残るのが魅力的なシリーズではあったんだけど。
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by yamanochika | 2012-10-13 10:20 | 児童文学

流れ行く者

上橋菜穂子著 守り人短編集

少女時代のバルサ、タンダの断章。
3編収録された話はどの話も形こそ違え、流れ行く者、家族をもたず誰にも看取られずに死んでいくそんな者たちを主人公としています。タンダを主人公にした「浮き籾」は何となく雰囲気が違うけれど、他の二編は「流れ行く者」として生きている人たちの姿が強く心に残る話。名より実を取ったラフラ、賭博師の枯れた姿。自暴自棄になったような死にざまを晒した隊商の護衛の最期。どこかバルサにも被る処がある姿に心が寒くなる半面、バルサには帰る場所になる人がいる事が伝わるタンダとの再会が救いになってくる。バルサが初めて人を殺した話もあって、守り人本編では強く、逞しい女性であるバルサはこうやって育ってきたんだというのが感慨深い。
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by yamanochika | 2012-07-08 00:35 | 児童文学

魔使いの悪夢


ジョゼフ・ディレイニー著 東京創元社刊

シリーズ7冊目。ギリシアでの辛い戦いを乗り越え戻ってきたトム達。しかし故郷では戦火の渦が増しており、留守の間に家が焼かれ師匠の蔵書も焼失してしまう。その上骨魔女のボニー・リジーが逃亡してしまった。敵兵から逃れようと、モナ島に移ったトム達だがそこではさらなる悪夢が待ち受けていた…!

毎回夜には読めない血が凍るような話になるんだけど、今回はアリスの母親ボニー・リジーが再登場。それでもリジーが行うどんな悪事より、魔女判定法の酷さの方が怖かった。坂の上から内側に釘が生えた樽に入れて転がし、死んでいれば人間、生き残れば魔女として化け物の餌に。判定法自体は実際に行われたもので、グリム童話にも「悪い魔女」への罰として登場してるんですよね。童話では魔女は悪い事をしたから罰を受けるのは当然という雰囲気なんですが、あのお話の裏に本当はどんな物語が潜んでいるかを考えると怖い。

そして、普通の母親に恵まれなかったアリスの悲しみ。鳥魔女と呼ばれていたエイドリアーナには彼女を思って大切にしてくれる両親がいた。エイドリアーナとアリスの比較でよりアリスの悲しい境遇が浮かんでくるんですよね。

師匠のグレゴリーも弱ってきて、世界のあちこちがあれはて残酷な事が起きるようになっている。10冊目で完結するということで、これから更に辛い事がトムの身に降りかかると予想出来るんですが、それをどうやって打開するのか、期待したい。外伝の2冊目、3冊目がそれぞれ辛い内容になりそうなんだけど。
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by yamanochika | 2012-05-24 00:19 | 児童文学

アーサー王ここに眠る



フィリップ・リーヴ著 東京創元社刊

吟遊詩人のミルディンに拾われた少女グウィナの目を通して、ブリテン島を統一しようとする野心に燃える司令官アーサーを描いた作品。アーサー王伝説を伝説ではなく現実にいた人物の歴史として書いている話はたくさんありますが、これもその一つ。ここではアーサーを単なるブリテン人の指導者の一人とし、吟遊詩人ミルディンを言葉を操る魔術師でアーサーを伝説に仕立て上げた男として描いている。アーサー王の話とはいっても、話の中心になるのはミルディンの方。

人は自分が見たいと思ったものを見る、という言葉通りにアーサーについての冒険譚を語ることによってアーサーを伝説で彩るミルディン。

粗野な男が様々な冒険で彩られ、精霊に選ばれた伝説の王に。異に染まぬ結婚をし、年の離れた若者との愚かな恋におぼれた王妃の恋は美しい裏切りの物語に。醜い部分も多い現実がミルディンに語られる事により、美しい物語に置き換えられて生き、やがて伝説へと変わっていく。事実よりも「信じたいもの」が強いという事を感じさせられる。

作中ではエピソードの一つとして、自分が聖人であると騙り、夫を失って一人領地に取り残された未亡人に漬け込んだ詐欺師が出てくるんですが、この人物を見ていると、現在でもこういった詐欺がまかり通っている現実を考えてしまう。人間の心のどこかに、人間よりも高次元の存在がいて、自分達の事を見ていると考えたい部分があって、だからこそこういう詐欺がいつの時代にも通ってしまうのかな。これも人は信じたいものを信じる、という言葉を補強するエピソードなんですが。まあそんな物語だからこそ、少年として育てられ強い意志を持つ女性に成長したグウィナの強さと「現実」を見る力に清涼感があるんでしょうね。
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by yamanochika | 2011-12-03 01:30 | 児童文学

テリー・プラチェット著 講談社刊

石切り場で残されたノーム達が苦労していた頃、空港に言ったマスクリン、ガーダー、アンガロ、そしてシングは何をしていたのか?というマスクリン達の物語。

空に行くために、イギリスから航空機に密航して、NASAまで辿りつくという大冒険を繰り広げるマスクリン達。冒険自体が波乱に富んでいるんだけど、人間との関わり、マスクリンの人間への認識の変化が見られて最後は何となくほっこりさせられてしまう。

乗り物狂で、どんな乗り物にも興味を持ちかなり行動的なアンガロと、真面目な為に自分の今までの知識を否定する知識を得るたびに苦悩するガーダー。二人を言い争わせておいて、最後は彼らをまとめるマスクリン。それぞれの性格が違っていて役割分担ができている分、会話が全てコントのような面白さがあります。

カモに乗って旅をするって子供の頃の夢ではありましたが、実際に乗ることを考えると結構きついな。でも、機械に乗るのは平気でも、生き物に乗るのは怖いっていうアンガロも面白い。

聖書パロは今回「子供向け百科事典」へと進化を遂げていて、その用語の解説はそれでいいの?的説明になっているのがプラチェット作品らしい。この解説や、作者による説明を読むとプラチェット作品だなーと思います。本を読んでいる中で一番笑えるのが作者の脚注だったりもするので、このシリーズに関する限りもう少し多くても良かったかも。
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by yamanochika | 2011-11-06 09:18 | 児童文学

テリー・プラチェット著 講談社刊

崩壊するストアから逃れて、閉鎖された石切り場に辿りついたノーム達。しかしここもまた安息の地ではなかった。マスクリンは空のどこかにいるというスペースシップを探す方法を求めて空港に旅立つ。一方残されたノーム達には新しい危機に立ち向かうことになり…

いよいよ聖書パロらしくなってきた2冊目。閉鎖された石切り場が再開される事になり、住みかを負われるノーム達は人間と戦う事を決意するのですが、一枚岩になることができない。以前の暮らしを懐かしみ、全てを彼らを連れだしたノームのせいにする者、文句だけはいうけれど、自分では何も決断しないし、行動もしようとしない者…。その辺の描写が集団社会の問題点を掬い取っていてリアルなんですよね。一度広い世界を知ってしまったらもう何も知らなかった頃には戻れない。そんなグリマの心理も分かりますが、ドルカスがグリマに言ったこともキツイけど真実なんだよなあ。かなり考えさせられる内容だった。

もっともノーム達の騒動っぷりは相変わらずで、笑える所は変わらないんですけど。特に何かと言うと本人いわく親切で、「あたしはもっと悪い事を知っている、だからこんなの大したことないよ!」
と具体例をあげて説明し、更に他の人達を落ち込ませるモーキーばあさんには笑った。元気な年寄りは見てると元気になりますよね。
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by yamanochika | 2011-11-06 09:05 | 児童文学

日々読んだ本の記録。他映画、漫画等の感想などあれこれ。感想はネタバレありです。ご注意下さい。
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