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魔法の館にやとわれて

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著 徳間書店刊

大魔法使いクレストマンシーシリーズの最新刊。

山麓の町で、本屋をやっている叔父さんと母親の3人で暮らす少年コンラッド。12歳になったコンラッドは魔術師である叔父から、町の向こうにある「ストーラリー館」に住むある人物を倒さない限り、今年中に命が亡くなると聞かされる。魔法の渦巻くストーラリー館に奉公に出ることになったコンラッド。同じく新しく雇われたクリストファーはどこか変わった少年で、やがて彼は別の世界からある目的をもってこの館に来たことが分かるのだが…。

クリストファーの恋と冒険を、年下の少年の視点から描いた作品。天然に人の気に障る発言をしてしまうクリストファーに笑ってしまった。長く付き合っていけば決して悪い奴ではないし、むしろヒーローみたいな子だって分かるけど、それと言っていることに腹が立たないかは別問題だから。ミリーの容赦ないクリストファー評も楽しい。クリストファーが聞いたらものっそ凹みそう。

コンラッドの何が可哀想って、育児放棄しているような母親と叔父さんに育てられて、本人はそれと意識していない所だと思うんだけど、そういうかわいげのある性格の子だからクリストファーと上手くやっていけるんだろうなあ。本人は、クリストファーは誰の言うことも聞かないって思ってるみたいだけど。

話のもう一つの主役は、「可能性のある世界」の狭間にたっているせいで、しょっちゅう次元がずれてしまうストーラリー館の描写。びっくり箱みたいな様子は、うすら怖い。特に色々出てきた階段の姿。螺旋階段を下りていって、お互い別の世界に出てしまうのも、下で恐ろしい魔女が待ちかまえているのも怖い。一番怖かったのはグラグラして、館から剥がれそうな階段。あれ、高所恐怖症の人間にとってはお化けに会うより怖いですよね。でも、可能性のある世界のどこにいってもあの館に明るい未来が無いのはちょっと悲しいなあ。

今回謎の放浪者達が出てきてますが、彼らがメインの話が別にあるんでしょうか。ちょっと読んでみたい。

クレストマンシーシリーズは、8月にも新作が翻訳されるそうで、こちらも楽しみ。「ハウルの動く城」シリーズもイギリスでは3作目が出てるそうなんですが、これは翻訳でないのかな。出してほしいなあ。
# by yamanochika | 2009-07-09 01:01 | SF・FT

百鬼夜行抄 18

前は中旬くらいに発売だったから、本屋に行ったら売ってて新刊だかどうだか分からなくて焦った。
収録されている話も雑誌で読んだ分だったので、一瞬既刊を買ってしまったのかとどぎまぎ。発行日見てやっと安心できました。

凪子の話が、雑誌で見たときはいまいち理解出来なかったんだけど、単行本で2回くらい読み直したら何となく分かってきた。悲しい話なんだけど、司ちゃんと係わる事でそこはかとなくお笑いテイストが入った気がする。しかし律よ、人に恨まれたり呪われている…と言われて一番に浮かぶのが開おじさんなのか。確かに開さんは恨んでなくても呪いかけたりしそうだけど。神隠しにあってただけあって、人間なのに妖怪じみてますよね。律はあと十何年経ってもああいう図太さは出ない気がする。

お金の為に呪術を行う八代さんは結構好き。趣味でやるほうがよっぽど不健全って言葉に納得しちゃうからかな。絹さんは意外な所で人の恨みをかってて可哀想でした。最近和尚や三郎さんがあんまり活躍していなくて寂しい。青嵐も解放された事だし、たまには出てこない話もいいかも。
# by yamanochika | 2009-07-09 00:36

イスタンブールの群狼

ジェイソン・グッドウィン著 早川文庫刊

1830年代のイスタンブールを舞台に、宦官ヤシムが活躍する時代風俗ミステリ。

「イスタンブールの慶事」でイェニチェリが一掃されてから10年。近衛師団の兵士4名が行方不明となり、内1名が惨殺死体となって発見される。閲兵式を間近に控え早期の解決を望む軍司令官は、聡明だと名高い宦官ヤシムに事件解決を依頼するが、その後も次々と行方不明となった士官が死体で発見される。彼らの様子は事件の背後にイェニチェリがいることを示唆しており、更に不穏な気配が見え隠れしていた…

四人の士官の死とそれを巡る動乱が書かれていますが、話の主人公となるのはミステリよりもイスタンブールの風景。聡明で、宦官であることに劣等感を持ちつつ活動するヤシムと共にトルコ名物料理の描写に舌鼓うち、衰退しつつあるもののまだまだ活気あふれるイスタンブールの街を楽しむ。ミステリとしてよりも、歴史小説として楽しむ話だと思う。

何せ、視点や描写が唐突に代わり、突然別の人物からの視点が入ったりするので、ミステリとして謎解きをするのは難しいんですよね。話の筋を追っていくので精一杯。でも、1836年当時のイスタンブールの描写はすごく生き生きしていて、街を歩いているかのよう。ヤシムの友人として登場する亡国ポーランドの大使や、明るく「女」としての生活を楽しむコサック舞踏手のプリーン、何よりスルタンの母后は活力に満ちていて、魅力的。ちょっと皮肉な視点が入ったヤシムと彼らのやり取りが楽しい。

しかしヤシムは宦官なのに女にモテモテだけどあれはいいのか。器官が残っていれば機能するものなのかな。

巻末に、訳者によるイェニチェリやトルコ文化の紹介、作中でヤシムが出てくるトルコ料理のレシピが載っています。本文で分かり難い部分もこれを読むとよくわかる…かも。ディー判事シリーズと同じ訳者さんが翻訳されているそうで、そういえばディー判事シリーズもいつも巻末の補講が多くて楽しいんですよね。歴史小説が好きな人にはおすすめ。
# by yamanochika | 2009-07-08 00:44 | 海外ミステリ

十二夜殺人事件

マイケル・ギルバート著 集英社刊

イギリスの田舎町で起きている連続少年殺人事件。惨たらしい事件の犯人は誰なのか?名門ブレップスクールの学校生活、イスラエル大使へのテロ事件をサブプロットに事件捜査が描かれていく。

怪しい行動をする新任教師や、テロ事件を絡めながら背景で事件の捜査が進められていくが、何より上手さを感じるのが少年達の学校生活の描写。他にも学園生活を舞台にした話を書いている人ですが、少年の集団を書くのが本当に上手い。恐ろしい動機、トリックの種明かし、そして最後に明かされる意外な犯人、というミステリの定石を十二分にこなしながら、少年の成長物語としても読むことが出来る。最後に上演される、少年達の演じる「十二夜」が感慨深い。
# by yamanochika | 2009-07-08 00:02 | 海外ミステリ

身代わり伯爵の失恋

清家未森著 角川ビーンズ文庫刊。

失恋と聞いて真っ先に思い浮かんだのはヴィルフリート殿下の事なんですが、殿下は本当にいい人でした。あそこであえて言わない所が。頑張れ鼻血王子。団長は鈍いにも程があると思う。ミレーユとリヒャルトの恋愛はやっと第二段階に入って、開き直ったリヒャルトの凄さに圧倒されました(笑)。砂糖吐きそうな位甘い。今一歩の所で詰めが甘いのがヘタレと言われる由縁でしょーか。しかもあちこちで師団員達にいちゃついている所を目撃されてるし。皆可哀想だ。ミレーユは本当に気付いてないんだと思うけど、リヒャルトは気付いていても放置してるような気もします。恋愛描写は、やっぱり王道はいいなーと再確認しました。

お話としては、進行がゆっくり目でなかなか進まないのがもどかしいんですけれど、いよいよシアラン編は佳境に入るということで、後2冊くらいで終わるのかな。キリルの事や、事件の真相、何よりフレッドの事が気になる。一緒に来ているフランソワーズが見つかっていないので、何かあった時の用心はしてるんだろうけど。ウォルター伯爵は普通に気持ち悪かった。

シリーズ自体は、アニメ化前でこれだけ人気があるものを出版社が終わらせるわけがないので、まだまだ続きそうですが、シアラン編の後はどっちの方向に行くのかなー。偽大公の裏に、別の誰かがいるみたいなんですが、その追求とか?
# by yamanochika | 2009-06-30 07:06 | ライトノベル