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大聖堂 上・中・下

ケン・フォレット著 ソフトバンク文庫刊

キングズブリッジの街を立て直す為に、新しく建築されようとしている大聖堂-。スティーブン王と女帝モードによるイングランド内戦を背景に、その建築が完成するまでの激動の30年を描いた歴史小説。

中世において、ヨーロッパ各地で大聖堂が作られたのは何故か。その答えが本書の中には書かれている。時には設計者が完成を見ることが出来ない程の長い年月をかけ、多額の予算と人手をかけ、人々が大聖堂の建築に情熱を傾けたのは何故か。それが、神と教会が街の中心にあり、王の上に教会が存在した中世世界において大聖堂は神の国の象徴であったからではないか。

天へ手を伸ばすかのような高い尖塔を持つゴシック建築の大聖堂が完成し、キングズブリッジは地域の中心として発展する。更に物語のクライマックスとなるのは、トマス・ベケット司教が暗殺され、民衆から殉教者として崇められる場面である。圧倒的な権力でイングランド改革をすすめていたヘンリ2世が、民衆の信仰心により教会に屈服せざる得なくなる…この場面が最後に来て、大聖堂の存在意義を改めて感じさせられたように思う。

物語は人間ドラマを中心に進められており、悲惨な出来事や喜ばしい出来事、建築が進められ、喜びにわきかえっている時に浴びせられる幾多の困難を乗り越える様に手に汗を握りながらページを捲っていたのですが、一番強く印象に残ったのは、没落した貴族の娘アリエナ。彼女が困難を乗り越えて、父が失った物を取り戻すまでの物語は目が離せなかった。清廉潔白で神の忠実な僕であるが故に、人々に慕われ、また憎まれもする修道院長フィリップも印象に残る人物の一人。物語の主役はこの2人といっても過言ではないのでは。

まあ細かい事はおいといて、とにかく面白かったです。物語の圧倒的なパワーを感じる作品。18年後に書かれた「大聖堂」の続編が読みたくて、まず「大聖堂」から取りかかったんですが、今度は200年後、中世の枠組みが崩れ始めた時代が舞台なので、これまたどんな話なのかが楽しみ。
# by yamanochika | 2009-05-10 21:54 | その他読んだもの

大聖堂の殺人

マイケル・ギルバート著 長崎出版刊

聖堂番を勤める老人を中傷する手紙や嫌がらせが相次いでいる…。伯父である首席司教の依頼で大聖堂を訪れたスコットランド・ヤードのポロック巡査部長。しかし、その夜に聖堂番が殺害されてしまう。上司のヘイズルリック警部と共に事件の捜査に当たるのだが…。

随分オーソドックスな作りだなーと思っていたらこれがマイケル・ギルバード氏のデビュー作だそうで。1937年に書かれているんだからオーソドックスも何もないんだけど、古き良き黄金時代のイギリスミステリが存分に味わえる。

途中でロンドンまでの追跡行あり、思いがけないユーモア小説のような場面があったり、クロスワードパズルに挑戦出来たりと色々盛りだくさんなんですが、主筋として主人公達の捜査が一貫して存在するので読みやすい。
# by yamanochika | 2009-05-10 20:49 | 海外ミステリ

マネー、マネー、マネー

エド・マクベイン著 ハヤカワ・ミステリ刊

87分署シリーズ51作目

動物園でライオンの餌になっていた女性の遺体。残された指紋から、彼女が元空軍のパイロットで、麻薬の運び屋をやっていたことが分かる。ゴミ箱に放置された出版社の営業担当者が発見されるに及び、国際的な麻薬密売組織の存在や、偽造紙幣の流通、テロリストが絡み事件は複雑な様相を見せ始め…。

とにかく人が死んで死んで死にまくる。登場したかと思ったら次は死体で登場というスピード感に痺れた。国際的な諜報機関により捜査が妨害されるとか、そういう展開には食傷気味なので、けちな空き巣が本人にも思いがけないことから一番のヒーローになるという皮肉さにほっとした。キャレラは嫌っているオリーに二度も命を助けられるわけですが、その借りを次回作で返すことになるのか。

ところで、本書の序文にこの本の内容をいつ構想し、どの位で書き上げ、発売日がいつになったか、という出版の流れが書かれているのですが、本書がイスラムテロリストによるアメリカ国内でのテロ活動が一つのテーマとなっており、9.11事件の5日前に発売された本だから、のようです。まるで現実が小説を模倣しているかのような内容にうそ寒くなります。

しかし作家がテロに対するリサーチをして、ビン・ラーディンの標的の一つに世界貿易センタービルが選ばれるだろうと予測出来ている位なんだから、アメリカの諜報機関にそれが出来なかったとは思わないんですが、
何で阻止出来なかったんだろう。
# by yamanochika | 2009-05-07 01:13 | 海外ミステリ

ラスト・ダンス

エド・マクベイン著 ハヤカワ・ミステリ刊

87分署シリーズ50作目。

父親がベッドで死んでいるのを発見した、という通報で駆け付けたキャレラ達が目にしたのは、どう見ても首吊りをした状態の死体だった。尋問の結果、娘のシンシアは、保険金が減額するのを恐れて自殺した父の死を偽装したと告白する。しかし司法解剖により、老人は意識を失う薬を飲まされて殺害されたという事が分かった。更に、同じ薬を使った殺人が起こり…。

市内で起きた幾つかの殺人が、同じ薬によって結びつき、動機が分かることによって纏められていく様はさすが。地道な捜査によって犯罪が解明されるのがこのシリーズの見所だと思うのですが、今回もオリーがやってくれました。嫌な男だけど、捜査の為なら夜中の2時、3時に危険地域を歩くこともいとわない。他の人間が投げだすような地道な聞き込みや捜索を続けていく。主役級のキャレラが、中年にさしかかったことを思い悩む男なのに対し、オリーが自分自身に大いなる満足と自信をもっているキャラクターなのも、安定感があって読んでいて安心出来る。
# by yamanochika | 2009-05-07 00:49 | 海外ミステリ

伯爵と妖精 魔都に誘われた新婚旅行

谷 瑞穂著 集英社コバルト文庫刊

魔都っていうんでパリが舞台なのかと思っていたら舞台はブルターニュ。結婚したらそこで終わりかっつーとむしろそこが入り口ということで新婚二人が色々と思い悩む話でした。身分違いの恋愛が、というよりも生活環境が違う二人が結婚すると、新しい生活や友人とのお付き合いに悩む事が増えるってことなんだろうなあ。婚約時代よりも更に辛さは増していたかも。その分愛も増量って感じでしたけど。

しかし今回読んで一番最初に浮かんだ感想はレイヴンひでぇ!でした。若い女性に対して何という失礼な事を…。しかも1回じゃないし。何かもうホントにニコが大好きなんだね。
# by yamanochika | 2009-05-07 00:37 | ライトノベル