S・E・グローヴ著 ハヤカワ文庫刊

大崩壊により様々な時代や魔法に飲み込まれバラバラになった世界。新西洋ボストンに住む少女ソフィアは、陰謀に巻き込まれ誘拐された著名なマップメイカーである伯父シャドラックの行方をおって旅立つ。手掛かりになるのは伯父の残したガラスの地図のみ。友人セオと共に汽車に乗り込んだソフィアもまた敵に狙われて…

ヤングアダルト向けのファンタジー。混乱に満ちた世界を旅するのには地図が必須。優れた地図を作れるマップメイカーは魔法のような力を持つとも言われている。自らもマップメイカーの卵であるソフィアが、唯一残された身内である伯父や友人を救うために必死に頑張る姿が愛らしい。
作中に出て来るラクリマや謎と示唆に富んだ物語は作中できちんと伏線が解き明かされてていくし、スッキリ読める。敵と言いつつも、複雑な人物の悲哀が伝わってくるのもいい。
作品を通しての謎になるソフィアの両親はどこにいるのか、セオの出生は明かされるのかなど明かされていない事もあるし何より大崩壊は何故起きたのかがきになる。
続編の翻訳を期待したい。


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# by yamanochika | 2016-06-25 12:02 | SF・FT

僕らの世界が終わる頃

彩坂美月著 新潮社刊

中1の頃のある出来事が理由で引きこもりになった少年渉。彼がネットで書き始めた小説が評判を呼ぶと同時に渉の家の近所で小説で書かれた事件が実際に起きる。誰かが渉の小説を模倣しているのか?やがて渉の身にも危険が迫り…。

ネット小説を模倣したかのような事件が起こり…という内容からはサイコものを連想させるけど、一番焦点が当たっているのは少年の成長と、心の絆の癒し。ある意味事件自体は周辺で起きた出来事であって、それにどう向き合うかが本題なんですね。
彼の心の叫びがそのまま現されたような作中の小説。結末がああいう風に閉じられたことが彼の心の健全さ、強さを表しているように思います。
爽やかでキュンとくる青春小説。
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# by yamanochika | 2016-06-12 10:08 | 国内作家

柘榴パズル

彩坂美月著 文藝春秋刊

祖父と母親、大学生の兄に年の離れた妹、そして短大生の私。滅多にいないような仲の良い家族5人の一夏の出来事と日常の謎を描いた5連作。

家族の物語と強調されること、そして合間に挟まれる新聞記事が家族の崩壊を予感させて、彼らの仲の良さを見たりや小さな謎が解き明かされていくたびに緊張感が募っていく。
最後の章で全ての謎が明かされると兄と妹の間にある不思議な空気感が何故なのか分かってスッキリした。侘しさはあるもののドロドロした生臭さはない。綺麗な童話を眺めているような印象の話。
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# by yamanochika | 2016-06-12 09:54 | 国内作家

スーザン・イーリア・マクニール著 創元推理文庫刊

チャーチル首相のタイピストからMI5にスカウトされたマギー。持久力に問題ありと訓練から脱落させられるが、ウィンザー城に疎開している王女の護衛役に任じられる。

ウィンザー城での王女たちの日常は実際に家庭教師を務めていた女性の本から描写を取ったという事で、生き生きと描写されています。城の住人も半分は実在する人物。ただしストーリーの方は解説でも何度も断られている通りフィクション。歴史ミステリではなく、舞台を第二次大戦中に設定し歴史上の人物が出てくるだけのコージーです。ヒロインが諜報員という事でその辺の活躍を期待して読むと肩透かしをくらいます。
キャラクターの性格や彼らのやり取りが気に入れば面白く読めるのでは無いでしょうか。個人的には城の警備や住人の身上調査がザルすぎる事や家庭教師として王室に仕える事になったのにろくなマナー講義すらなく送り込まれるヒロインが気になって話にいまいち入り込めませんでした。
オリキャラを活躍させる為に他のキャラクターが無能にされている二次創作読んでいる気分。
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# by yamanochika | 2016-06-12 09:40 | 海外ミステリ

アーナルデュル・インドリダソン著 東京創元社刊

クリスマスシーズンのホテルの地下室で殺害された男。捜査を進める内にホテルのドアマンとして働いていた孤独な男の意外な過去が明らかにされていく。

アイスランドを舞台にしたミステリ3作目。殺人事件の捜査が主体ではあるんですが、捜査を進めるにつれ明らかになった男の過去によって、捜査官のエーレンデュルもまた自分の過去と喪われたものに深く思いを馳せることになる。
家族のあり方。喪失されたもの。何故彼らはバラバラになってしまったのか。そんな侘しさが身に沁みてくる。
物語は侘しさを纏いつつ救いを残して終わりを迎えるのですが、明らかになった真相、殺人事件の犯人像がまた佗しい。日本ではピンと来ないけどクリスマスは家族や友人と過ごす団欒である国ではクリスマスは一番孤独を感じる季節なのだと思う。「クリスマスは幸せな人の為にあるもの」という言葉が辛い。
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# by yamanochika | 2016-05-28 14:02 | 海外ミステリ

緋の収穫祭

S・J・ボルトン著 創元推理文庫刊

地滑りが起きて露わになった墓から、墓の主である幼女以外の幼い子供の遺体が発見される冒頭から始まる今作は今までの作品の中で一番ホラー性が強い。

教会の隣に新築された家に引っ越してきた一家の子供たちの前に姿を現した不気味な人影は何者なのか。教会の周りで失われた幼い命は本当に事故だったのか。少年と新任の牧師、幼い子供を亡くし立ち直れないでいる母親の主治医を務める精神科医の3人の視点から物語が進んでいく。

何者かが幼い子供たちの命を狙っているけれど、それが誰か、目的は何かがなかなか分らない。不気味な出来事と、古代から連綿と続く儀式がさらに物語に陰影をつけていく。昔からの地域の繋がりが強いこと、彼らが誇りにしていることが実は…というつなげ方は上手い。ネタばれになるけれど、風土病が多い地域はこういう場所も多いんだろうか。

救いようのなさでは1作目の方が(設定からして)強かったけれど、読後感の寂しさはこれが一番。
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# by yamanochika | 2016-02-19 02:31 | 海外ミステリ

ハンニバル戦争

佐藤賢一著 中央公論社刊

ハンニバル戦争こと第二次ポエニ戦争を、ハンニバルと対決するスキピオ・アフリカヌスを主人公に据えて書いた小説。ハンニバル戦争と銘打ちながら、話はあくまで若スキピオの視点から進む。ハンニバルとの戦争に初陣した血気盛んな若きスキピオはやがてハンニバルの強さに徹底的に打ちのめされる。何度やっても、これなら勝てるという戦いに望んでも勝てない。
スキピオ視点のハンニバルは、ローマ人から見たハンニバルと言っても過言ではない。ハンニバルの望みは何か。彼は何を考えて行動しているのか。それが分らないからこそ、ハンニバルの際立った天才性とローマ人がどれだけ彼を恐れたかが伝わってくる。正体のわからないものはそれだけで恐怖の源なので。

スキピオもまた若き天才と言われた存在なんですが、この小説でのスキピオはひたすらハンニバルへの劣等感に苦しむ。戦争に勝つことには成功したけれど、結局ローマはハンニバルに勝つことができなかった。ローマ人が何故あれほどカルタゴを恐れ、民族ごと滅ぼすようなことをしたのかという理由はそこに集約されているように思う。戦記ものとして読むと薄いなあという感想なんですが、ハンニバルという天才を外から眺める話とローマの今後の方向性が彼によって定まったと思って読むとそれなりに面白い。
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# by yamanochika | 2016-02-19 02:29 | 国内作家

三つの秘文字 上・下

S・J・ボルトン著 創元推理文庫刊

シェトランドに越してきたトーラは、死んだ愛馬の為に墓を作ろうとして女性の遺体を掘りあててしまう。心臓がえぐられ背中に3つのルーン文字が刻まれた遺体は、出産後間もない身であった。やがて彼女の身元が判明するが、推定死亡年月日の前年に死亡していたことがわかり…

閉鎖的な島に伝わる怖ろしい伝説。無残な遺体に不可解な謎。それらが矮小化されることなく、怖ろしい陰謀となってヒロインの身に襲いかかる。やや強引な展開は否めないものの、主人公を襲う恐怖と彼女が抱える苦悩が上手くミックスしてデビュー作にして読み応え十分。

しかしこの話を読むとシェトランド諸島には行きたくなくなってしまう。怖い。
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# by yamanochika | 2016-02-19 02:26 | 海外ミステリ

毒の目覚め 上・下

S・J・ボルトン著 創元推理文庫刊

例年よりも少し暑かった夏、英国の小さな村で蛇が異常繁殖する。獣医のクララは蛇にかまれて死んだ老人の死因について医師に意見を求められ、遺体を調べるうちに老人の死に疑問を感じる。1匹の蛇にかまれたにしては毒が多すぎるのだ。やがて村では蛇の異常発生が起こり、更にはイギリスにはいない猛毒の蛇まで発見される。数々の事件は何者かにより陰謀なのか。50年以上前に起きた事件との関わりは…?

イギリスののどかな村を舞台にしたサスペンス。優秀な獣医ながら過去に起きた出来事から自身の容貌にコンプレックスを抱えたクララは他人と交流することを望まずに生きてきた。クララが過去の出来事からの解放と、この村で起きた過去の事件の謎が上手くミックスして前作以上に面白い。
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# by yamanochika | 2016-02-19 02:19 | 海外ミステリ

失われしものたちの本

ジョン・コナリー著 東京創元社刊

失われしもの、というのは誰にとって失われたものなのだろうか。

第二次大戦直前のイギリス。愛する母を病気で失った12歳の少年デイヴィット。たった2人の家族として父親とふれあったのもつかの間、父は母の入院していた病院の理事である女性と子供を作り、再婚してしまう。新しい家族と一緒に、古い屋敷に住むことになったデイヴィットは、死んだ母の声に導かれるようにして別の世界へ旅立つ。そこはよく知るおとぎ話が姿を変えて実在している世界だった。オオカミの子を産んだ赤ずきん、白雪姫に虐待される7人の小人。老いた国王が持つ「失われしものたちの本」があれば元の世界に戻れるかもしれない。デイヴィットは国王が住む王都を目指して旅立つが、行く手には苦難が待ち受けていた。

思春期の入口にたった子供、大切なものを失った子供が異世界を旅する内にその身に抱える人を殺せるほどの怒りを解放させ成長していく。そうまとめると成長譚としてはよくある話になってしまうけれど、この世界を彩る姿を変えたおとぎ話は怪しくも魅力的で、狼人間に追われる恐怖と相まって幻想的な雰囲気を醸し出す。母の幻影を追うことを辞め、理想的な父と別れたあと、デイヴィットは自分の目で現実を見られるようになっていく。そうして現実世界に戻った少年が、これから大人として成長していくなら希望に満ちて終わるのだけれど、この話は着地点がそこではない。その先に着地点が作られているのが、ほろ苦い後味を残しているのだと思うのです。
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# by yamanochika | 2016-02-19 02:11 | SF・FT

日々読んだ本の記録。他映画、漫画等の感想などあれこれ。感想はネタバレありです。ご注意下さい。
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