大尉の盟約

L・M・ビジョルド著。創元推理文庫刊

イワン、偽装結婚する。

あらすじはその一語に尽きるんですが、マイルズ・シリーズにおいて常に愛すべき愚か者として書かれていたイワンの嫁取り話。シリーズとしては番外編になるので割合気楽に読めるんですが、どたばたっぷりではシリーズでもなかなかの作品。

コマールで軍務についていたイワンは機密保安庁の職員に頼まれてある女性と親密になろうとする。彼女が追われていることを知ったイワンは彼女の窮地を救うために偽装結婚を提案する。バラヤーに戻ったらすぐ離婚するつもりの結婚だったがバラヤーに戻るより早くイワンの母レディ・アリスの知るところとなり…。

結婚してみたら案外相性が良くて、お互いに相手に惹かれあっていく二人の話なので、結婚から始まる恋愛小説と言っても過言ではないかも。シリーズ作品を読んでいればイワンやマイルズをはじめとするヴォルコシガン一族の複雑な血縁関係もおなじみですが、ごく中流のヴォル階級の若者に見えたイワンの実情が分かったテユのとまどいがなかなか新鮮。
テユの方にも色々な事情があって、そこが話のキモにもなるわけですが、やはり圧巻は最後のアレの崩壊。バラヤーの旧世代の象徴ともいえる場所なので、一つの時代が終わったような感慨がありますね。
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# by yamanochika | 2016-02-14 00:31 | SF・FT

アラン・ブラッドリー著 創元推理文庫刊。

化学と毒薬が大好きな少女フレーヴィアが探偵を務めるシリーズ6作目。
シリーズの中で、不在にも関わらず常にどこかに存在を感じさせていたフレーヴィアの母ハリエット。フレーヴィアがまだ赤ん坊の頃アルプスで遭難死したハリエットが見つかった!というのが前作での衝撃的な結末でしたが、今回はハリエットの遺体がバックショー仮駅に到着するところから物語が始まる。

まだ生まれたばかりの子供を残してハリエットは何故アルプスへ向かったのか。何度も語られ明らかにされるハリエットの姿は化学を愛し、飛行機の操縦もこなすフレーヴィアによく似た女性。そのハリエットの秘密が明らかにされるのが今作と言えます。大人顔負けの化学知識を保持しているけれど、フレーヴィアはまだ子供で、彼女が試みようとしたある実験には心打たれます。

今までは生死不明だったため何もかもが中途半端で放置されていたのが、遂に決着がついたことで財産問題にも決着がつき、心の整理も出来る。そんな家族の複雑な心境や村人たちの弔問などの描写にはしみじみしたのだけれど、いかんせん話が大きくなってしまったなあという印象もぬぐえない。

少しませた、でもまだ子供でもあるフレーヴィアの自分なりの知識を駆使した探偵物語として楽しんでいたのでこのスケールの大きさには戸惑うばかり。
どちらにしても今後のフレーヴィアの成長物語が楽しみです。
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# by yamanochika | 2016-02-14 00:26 | 海外ミステリ

髑髏の檻

ジャック・カーリィ著  文春文庫刊

久しぶりの長期休暇を取ってケンタッキー山中を訪れたカーソンは、連続殺人の遺体を発見し事件に巻き込まれる。犯人はネット上の宝探しサイトで犯行を予告し、宝探しにきた人物に奇妙な装飾をほどこした遺体を発見させていた。捜査に関わるカーソンの前に逃亡中の連続殺人犯である実兄ジェレミーが現れ…。

ジェレミーが再び登場するシリーズ6作目。この二人の兄弟の奇妙な間柄は相変わらず。ですが、以前に比べると濃密な依存度は低くなっているように思います。ジェレミーがカーソンの導き手を気取っているのは相変わらずですが。誰かに導かれるように細工された遺体が展示された象徴殺人。それをカーソンがどのように紐解いていくのかも見どころの一つですが、今回俎上に載せられているのは動物や人間を相手にした非合法な危険なデスマッチとそれによって莫大な富を手に入れている人々。

古代からある見せものだけれど、何故こういうものを必要とする人々がいるのか。考えさせれる。
しかしカーソン、最後の最後で詰めが甘いのは相変わらず。これで独り立ち出来るのか心配。
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# by yamanochika | 2015-12-30 23:55 | 海外ミステリ

曲がり角の死体

E・C・ロラック著 創元推理文庫刊

大雨の夜、急カーブの続く難所で起きた車の衝突事故。事故で大破した車から発見された実業家の遺体は、検死の結果事故の1時間前に一酸化炭素中毒によって死亡していた事が判明する。車の故障か、あるいは遺体がここまで運ばれたのか。不可解な状況の中、被害者の息子に容疑がかかるのだが…

マクドナルド主席警部シリーズ。
一見不可解な、あるいは悪魔的な事件が提示されるけど地道な捜査によって一つ一つの可能性が絞られていくのが警察小説らしい堅実さがあって読みやすい。犯人の意外性という点では疑問符があるのですが、安定して楽しめる。
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# by yamanochika | 2015-12-30 23:47 | 海外ミステリ

悪女は自殺しない

ネレ・ノイハウス著 創元推理文庫刊

オリヴァー&ピアシリーズ1冊目。

刑事として警察に復帰したピアを待ち受けていたのは、自殺に偽装された女性の殺人事件だった。動物の安楽死に使われる薬が使われていた事が分かり、夫の獣医、彼の共同経営者や女性が入っていた乗馬クラブの経営者などに疑いの目がかかる。行く先々でトラブルを起こしていた被害者には殺人の動機を持つ者が多く、捜査は難航するが…。

シリーズ1作目とあって、後のシリーズに比べるとピアの活躍度は低目でコンビ物としては若干物足りない。殺されても仕方がないと思わせるような被害者に雲のように湧いてくる容疑者と、それが絞られていく推理の過程が面白い。作中でこれは見逃されていいのかと思う事件も起こるのですが、自費出版で出された作品なのでその辺はまあ仕方がないか。
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# by yamanochika | 2015-12-30 23:35 | 海外ミステリ

バリー・ライガ著 創元推理文庫刊

町で発見された女性の遺体からは指が切り取られていた。17歳の高校生ジャズは事件が連続殺人犯によるものだと確信し、保安官に訴えるものの相手にしてもらえない。ジャズには誰よりもシリアルキラーの事が理解出来るのだ、何故なら彼の父親は全米でも屈指の連続殺人犯で、ジャズは幼少の頃から父親から英才教育を受けさせられてきたのだから。

小さな町で起きた連続殺人がテーマになるものの、連続殺人犯を父に持ち、自分もまた父親のようになってしまうのではないかと苦悩しながら連続殺人犯を突き止めようとする少年の青春物語。

彼の父親は逮捕されるまで息子を自分と同じような人間にしようと教育を施してきた。大人になる一歩手前の場所で、父とは違う人間になろうとするジャズの苦悩は青臭く、すこしほろ苦い。血友病患者でジャズの親友のハウイー、恋人のコニーはジャズにとって大切な人達だけど、自分が彼らを本当に大切に思っているのか、大切だと思う振りをして人間であるように振舞っているのか。父親という大きな楔がジャズの中にあってその楔との戦いが大人への一歩になるんですね。

しかし下世話な話だけど童貞を捨てるというのは大人への通過儀礼になるのかな。そういう意味ではジャズはまだ子供であるんですが、彼の場合は乗り越えなくてはならない壁が大きいので、父親という呪縛が解けた時に初めて大人になる事を選択出来るのかも。

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# by yamanochika | 2015-08-08 14:48 | 海外ミステリ

ドクター・スリープ

スティーブン・キング著 文藝春刊

シャイニングの続編
かがやきを持つ子供ダンはあの後どう生きていったのか。
オーバールックから生き延びた親子の物語とやがてダンがかがやきのもたらすものから逃れる為に酒に溺れるようになったことと、どん底からの立ち直りとが冒頭で語られていく。

ホスピスに勤めるようになった自らの力を生かし死にゆく人々が安らかに眠れるように末期に寄り添い、ドクター・スリープと呼ばれるようになる。やがて物事はすべて循環していくという言葉通りに、かつての自分より大きなかがやきを持った少女アブラの師匠として、彼女の持つ生命力を狙う空っぽの悪魔たちと戦う事に…

シャイニングと言えばキングの長編の中でも屈指のホラー作品として有名です。確かに閉ざされた場所での幽霊屋敷ものとしての恐怖と閉塞感は群を抜いていますが、何より印象に残るのは父親の息子への強い愛情。徐々に狂気に襲われ愛する息子を自らの手で殺してしまいそうになる事の恐怖。家族の物語であり、悲しい話だというのが読後の感想でした。

そしてその家族の物語としてドクター・スリープはシャイニングをしっかり引き継いだ物語になっていると思う。すべての物事は循環し、元に戻っていく。ダンの物語の総決算を迎えるのがあの場所になるのも、幕切れとして相応しい。そしてダンとアブラを助ける最後の一助となるのが彼だというのがすごく嬉しかった。親子の物語にようやくピリオドがうたれた。そんな感じです。

登場人物では最初にダンに救いの手を差し伸べるビリーと、アブラの曽祖母コンチェッタが印象に残ってます。少し不満点が残るとしたら敵でありアブラを狙う連中がショボいところか。
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# by yamanochika | 2015-08-01 14:43 | SF・FT

悪魔の羽根

ミネット・ウォルターズ著 創元推理文庫刊

2002年、シエラレオネで5人の女性が残虐なやり方で殺害された。イギリス人記者のコニーは傭兵として参戦していたマッケンジーを疑うが
、元少年兵が容疑者として起訴され事件は有耶無耶の内に幕を閉じる。その2年後、バグダッドで彼に遭遇したコニーは、殺人事件に絡めて彼を探りはじめるが、何者かによって拉致された後3日後にほぼ無傷で解放される。
監禁時にあったことについては曖昧な発言を重ねるだけで極度に怯えたコニーは逃げるようにイギリスに戻ってしまう。彼女の身に何が起きたのか。

ここまではほぼ前提条件。物語の中心となるのは、コニーが偽名で借りた田舎の住宅とその近辺になる。そこで出会ったジェスという女性との関係や、合間に挟まれる事件に関する警察や同僚とのメールがドキュメント風な趣きを添えつつ、コニーの身に起きたこと、何が彼女をそれほど怯えさせたのかが徐々に明らかになっていく。

主眼となるのはコニーの身に起きたこたそのものより彼女がどうそこからサバイバルして自分自身を取り戻したかという事。決定的な事は書かれないまま読者の想像に任せる曖昧さがいい味を出しているのだけど、悪魔に出会ってそこから引き返す事が出来たか否か。
最後の一文を読むと、彼女が作中から想像出来る行為はしなかったと思う。女性の、立ち直りの物語として爽快で痛快。
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# by yamanochika | 2015-07-18 14:36 | 海外ミステリ

犯罪

フェルディナント・フォン・シーラッハ著 創元推理文庫刊

作者による序文にこういう言葉が出てきます。「物事は込み入っていることがおおい。罪もそういうもののひとつだ」。

この言葉のように、色々な犯罪が描かれた味わいのある短編集。作中には作者を思わせる弁護士が登場し、彼が弁護を引き受けた…あるいは話を聞かされた人たちの物語として話が語られていく。生涯愛し続けると誓った妻を殺害した老医師の話、日系人の家に伝わる古い茶碗を盗んだ泥棒の末路、エチオピアの寒村を豊かにした銀行強盗の話。

犯罪なのか、そうではないのか判然としない話もあれば、奇妙な味わいにぞっとする話もある。結末とは関係ないけれど、「タナタ氏の茶碗」に書かれた、ギリシャ人と穴を巡る話の不思議さがなんとも言えず好きです。「幸運」とは何なのか?を考えさせられる「幸運」も捨てがたい。一気に読んでしまったけど、一日に1作ずつ読みながら、心に残る味わいを楽しみたいような、そんな1冊。
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# by yamanochika | 2015-07-11 14:42 | 海外ミステリ

エージェント6

トム・ロブ・スミス著 新潮文庫刊

殺人課は閉鎖され、今は民間人として工場で働くレオ。一方妻のレイーサは教育界で名をなし、養女のゾーヤとエレナを交えた友好使節団を率いてニューヨークへ向かうことになった。ニューヨークでの米ソ少年少女によるコンサートは大成功を収めるが、その直後に悲劇が起こる。同行を許されず一人ロシアに残ったレオは悲嘆にくれるが…

レオ・デミドフ3部作のラスト。レオとライーサの出会いから80年代に至るまでの米ソの動乱の歴史を描いた最終作。ソ連の全体主義と、国家に引きつぶされていく個人を書いたように、今度はアメリカにおける赤狩りの歴史も書かれていく。一貫して書かれているのはレオのライーサへの純愛。レオとライーサの純愛ではないところが悲しい所だけど、この愛によってアフガニスタン内戦からニューヨークまでレイーサの死の真相を知る為にレオは突っ走っていくんですね。

上巻はレオとライーサの出会い、アメリカにおいて迫害される共産主義者の歌手ジェシー・オースティンと60年代のアメリカの姿。そして下巻はそれから15年後、アフガニスタンで鬱屈した日々を送るレオの姿が描かれる。話としては、それは無理があるだろうと思う部分があるんだけど、冒険小説としてぐいぐい引っ張っていく力はさすが。レオとライーサ、レオの家族の物語としてはまあ綺麗に纏まっているのではないでしょうか。

ただ、自分の中で1作目の「チャイルド44」に対する評価が高いのは、この小説に求めていたのがミステリとしての面白さで、それが一番出ていたのが1作目だからかな。
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# by yamanochika | 2015-07-11 14:30 | 海外ミステリ

日々読んだ本の記録。他映画、漫画等の感想などあれこれ。感想はネタバレありです。ご注意下さい。
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