スーザン・イーリア・マクニール著 創元推理文庫刊

チャーチル首相のタイピストからMI5にスカウトされたマギー。持久力に問題ありと訓練から脱落させられるが、ウィンザー城に疎開している王女の護衛役に任じられる。

ウィンザー城での王女たちの日常は実際に家庭教師を務めていた女性の本から描写を取ったという事で、生き生きと描写されています。城の住人も半分は実在する人物。ただしストーリーの方は解説でも何度も断られている通りフィクション。歴史ミステリではなく、舞台を第二次大戦中に設定し歴史上の人物が出てくるだけのコージーです。ヒロインが諜報員という事でその辺の活躍を期待して読むと肩透かしをくらいます。
キャラクターの性格や彼らのやり取りが気に入れば面白く読めるのでは無いでしょうか。個人的には城の警備や住人の身上調査がザルすぎる事や家庭教師として王室に仕える事になったのにろくなマナー講義すらなく送り込まれるヒロインが気になって話にいまいち入り込めませんでした。
オリキャラを活躍させる為に他のキャラクターが無能にされている二次創作読んでいる気分。
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# by yamanochika | 2016-06-12 09:40 | 海外ミステリ

アーナルデュル・インドリダソン著 東京創元社刊

クリスマスシーズンのホテルの地下室で殺害された男。捜査を進める内にホテルのドアマンとして働いていた孤独な男の意外な過去が明らかにされていく。

アイスランドを舞台にしたミステリ3作目。殺人事件の捜査が主体ではあるんですが、捜査を進めるにつれ明らかになった男の過去によって、捜査官のエーレンデュルもまた自分の過去と喪われたものに深く思いを馳せることになる。
家族のあり方。喪失されたもの。何故彼らはバラバラになってしまったのか。そんな侘しさが身に沁みてくる。
物語は侘しさを纏いつつ救いを残して終わりを迎えるのですが、明らかになった真相、殺人事件の犯人像がまた佗しい。日本ではピンと来ないけどクリスマスは家族や友人と過ごす団欒である国ではクリスマスは一番孤独を感じる季節なのだと思う。「クリスマスは幸せな人の為にあるもの」という言葉が辛い。
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# by yamanochika | 2016-05-28 14:02 | 海外ミステリ

緋の収穫祭

S・J・ボルトン著 創元推理文庫刊

地滑りが起きて露わになった墓から、墓の主である幼女以外の幼い子供の遺体が発見される冒頭から始まる今作は今までの作品の中で一番ホラー性が強い。

教会の隣に新築された家に引っ越してきた一家の子供たちの前に姿を現した不気味な人影は何者なのか。教会の周りで失われた幼い命は本当に事故だったのか。少年と新任の牧師、幼い子供を亡くし立ち直れないでいる母親の主治医を務める精神科医の3人の視点から物語が進んでいく。

何者かが幼い子供たちの命を狙っているけれど、それが誰か、目的は何かがなかなか分らない。不気味な出来事と、古代から連綿と続く儀式がさらに物語に陰影をつけていく。昔からの地域の繋がりが強いこと、彼らが誇りにしていることが実は…というつなげ方は上手い。ネタばれになるけれど、風土病が多い地域はこういう場所も多いんだろうか。

救いようのなさでは1作目の方が(設定からして)強かったけれど、読後感の寂しさはこれが一番。
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# by yamanochika | 2016-02-19 02:31 | 海外ミステリ

ハンニバル戦争

佐藤賢一著 中央公論社刊

ハンニバル戦争こと第二次ポエニ戦争を、ハンニバルと対決するスキピオ・アフリカヌスを主人公に据えて書いた小説。ハンニバル戦争と銘打ちながら、話はあくまで若スキピオの視点から進む。ハンニバルとの戦争に初陣した血気盛んな若きスキピオはやがてハンニバルの強さに徹底的に打ちのめされる。何度やっても、これなら勝てるという戦いに望んでも勝てない。
スキピオ視点のハンニバルは、ローマ人から見たハンニバルと言っても過言ではない。ハンニバルの望みは何か。彼は何を考えて行動しているのか。それが分らないからこそ、ハンニバルの際立った天才性とローマ人がどれだけ彼を恐れたかが伝わってくる。正体のわからないものはそれだけで恐怖の源なので。

スキピオもまた若き天才と言われた存在なんですが、この小説でのスキピオはひたすらハンニバルへの劣等感に苦しむ。戦争に勝つことには成功したけれど、結局ローマはハンニバルに勝つことができなかった。ローマ人が何故あれほどカルタゴを恐れ、民族ごと滅ぼすようなことをしたのかという理由はそこに集約されているように思う。戦記ものとして読むと薄いなあという感想なんですが、ハンニバルという天才を外から眺める話とローマの今後の方向性が彼によって定まったと思って読むとそれなりに面白い。
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# by yamanochika | 2016-02-19 02:29 | 国内作家

三つの秘文字 上・下

S・J・ボルトン著 創元推理文庫刊

シェトランドに越してきたトーラは、死んだ愛馬の為に墓を作ろうとして女性の遺体を掘りあててしまう。心臓がえぐられ背中に3つのルーン文字が刻まれた遺体は、出産後間もない身であった。やがて彼女の身元が判明するが、推定死亡年月日の前年に死亡していたことがわかり…

閉鎖的な島に伝わる怖ろしい伝説。無残な遺体に不可解な謎。それらが矮小化されることなく、怖ろしい陰謀となってヒロインの身に襲いかかる。やや強引な展開は否めないものの、主人公を襲う恐怖と彼女が抱える苦悩が上手くミックスしてデビュー作にして読み応え十分。

しかしこの話を読むとシェトランド諸島には行きたくなくなってしまう。怖い。
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# by yamanochika | 2016-02-19 02:26 | 海外ミステリ

毒の目覚め 上・下

S・J・ボルトン著 創元推理文庫刊

例年よりも少し暑かった夏、英国の小さな村で蛇が異常繁殖する。獣医のクララは蛇にかまれて死んだ老人の死因について医師に意見を求められ、遺体を調べるうちに老人の死に疑問を感じる。1匹の蛇にかまれたにしては毒が多すぎるのだ。やがて村では蛇の異常発生が起こり、更にはイギリスにはいない猛毒の蛇まで発見される。数々の事件は何者かにより陰謀なのか。50年以上前に起きた事件との関わりは…?

イギリスののどかな村を舞台にしたサスペンス。優秀な獣医ながら過去に起きた出来事から自身の容貌にコンプレックスを抱えたクララは他人と交流することを望まずに生きてきた。クララが過去の出来事からの解放と、この村で起きた過去の事件の謎が上手くミックスして前作以上に面白い。
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# by yamanochika | 2016-02-19 02:19 | 海外ミステリ

失われしものたちの本

ジョン・コナリー著 東京創元社刊

失われしもの、というのは誰にとって失われたものなのだろうか。

第二次大戦直前のイギリス。愛する母を病気で失った12歳の少年デイヴィット。たった2人の家族として父親とふれあったのもつかの間、父は母の入院していた病院の理事である女性と子供を作り、再婚してしまう。新しい家族と一緒に、古い屋敷に住むことになったデイヴィットは、死んだ母の声に導かれるようにして別の世界へ旅立つ。そこはよく知るおとぎ話が姿を変えて実在している世界だった。オオカミの子を産んだ赤ずきん、白雪姫に虐待される7人の小人。老いた国王が持つ「失われしものたちの本」があれば元の世界に戻れるかもしれない。デイヴィットは国王が住む王都を目指して旅立つが、行く手には苦難が待ち受けていた。

思春期の入口にたった子供、大切なものを失った子供が異世界を旅する内にその身に抱える人を殺せるほどの怒りを解放させ成長していく。そうまとめると成長譚としてはよくある話になってしまうけれど、この世界を彩る姿を変えたおとぎ話は怪しくも魅力的で、狼人間に追われる恐怖と相まって幻想的な雰囲気を醸し出す。母の幻影を追うことを辞め、理想的な父と別れたあと、デイヴィットは自分の目で現実を見られるようになっていく。そうして現実世界に戻った少年が、これから大人として成長していくなら希望に満ちて終わるのだけれど、この話は着地点がそこではない。その先に着地点が作られているのが、ほろ苦い後味を残しているのだと思うのです。
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# by yamanochika | 2016-02-19 02:11 | SF・FT

大尉の盟約

L・M・ビジョルド著。創元推理文庫刊

イワン、偽装結婚する。

あらすじはその一語に尽きるんですが、マイルズ・シリーズにおいて常に愛すべき愚か者として書かれていたイワンの嫁取り話。シリーズとしては番外編になるので割合気楽に読めるんですが、どたばたっぷりではシリーズでもなかなかの作品。

コマールで軍務についていたイワンは機密保安庁の職員に頼まれてある女性と親密になろうとする。彼女が追われていることを知ったイワンは彼女の窮地を救うために偽装結婚を提案する。バラヤーに戻ったらすぐ離婚するつもりの結婚だったがバラヤーに戻るより早くイワンの母レディ・アリスの知るところとなり…。

結婚してみたら案外相性が良くて、お互いに相手に惹かれあっていく二人の話なので、結婚から始まる恋愛小説と言っても過言ではないかも。シリーズ作品を読んでいればイワンやマイルズをはじめとするヴォルコシガン一族の複雑な血縁関係もおなじみですが、ごく中流のヴォル階級の若者に見えたイワンの実情が分かったテユのとまどいがなかなか新鮮。
テユの方にも色々な事情があって、そこが話のキモにもなるわけですが、やはり圧巻は最後のアレの崩壊。バラヤーの旧世代の象徴ともいえる場所なので、一つの時代が終わったような感慨がありますね。
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# by yamanochika | 2016-02-14 00:31 | SF・FT

アラン・ブラッドリー著 創元推理文庫刊。

化学と毒薬が大好きな少女フレーヴィアが探偵を務めるシリーズ6作目。
シリーズの中で、不在にも関わらず常にどこかに存在を感じさせていたフレーヴィアの母ハリエット。フレーヴィアがまだ赤ん坊の頃アルプスで遭難死したハリエットが見つかった!というのが前作での衝撃的な結末でしたが、今回はハリエットの遺体がバックショー仮駅に到着するところから物語が始まる。

まだ生まれたばかりの子供を残してハリエットは何故アルプスへ向かったのか。何度も語られ明らかにされるハリエットの姿は化学を愛し、飛行機の操縦もこなすフレーヴィアによく似た女性。そのハリエットの秘密が明らかにされるのが今作と言えます。大人顔負けの化学知識を保持しているけれど、フレーヴィアはまだ子供で、彼女が試みようとしたある実験には心打たれます。

今までは生死不明だったため何もかもが中途半端で放置されていたのが、遂に決着がついたことで財産問題にも決着がつき、心の整理も出来る。そんな家族の複雑な心境や村人たちの弔問などの描写にはしみじみしたのだけれど、いかんせん話が大きくなってしまったなあという印象もぬぐえない。

少しませた、でもまだ子供でもあるフレーヴィアの自分なりの知識を駆使した探偵物語として楽しんでいたのでこのスケールの大きさには戸惑うばかり。
どちらにしても今後のフレーヴィアの成長物語が楽しみです。
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# by yamanochika | 2016-02-14 00:26 | 海外ミステリ

髑髏の檻

ジャック・カーリィ著  文春文庫刊

久しぶりの長期休暇を取ってケンタッキー山中を訪れたカーソンは、連続殺人の遺体を発見し事件に巻き込まれる。犯人はネット上の宝探しサイトで犯行を予告し、宝探しにきた人物に奇妙な装飾をほどこした遺体を発見させていた。捜査に関わるカーソンの前に逃亡中の連続殺人犯である実兄ジェレミーが現れ…。

ジェレミーが再び登場するシリーズ6作目。この二人の兄弟の奇妙な間柄は相変わらず。ですが、以前に比べると濃密な依存度は低くなっているように思います。ジェレミーがカーソンの導き手を気取っているのは相変わらずですが。誰かに導かれるように細工された遺体が展示された象徴殺人。それをカーソンがどのように紐解いていくのかも見どころの一つですが、今回俎上に載せられているのは動物や人間を相手にした非合法な危険なデスマッチとそれによって莫大な富を手に入れている人々。

古代からある見せものだけれど、何故こういうものを必要とする人々がいるのか。考えさせれる。
しかしカーソン、最後の最後で詰めが甘いのは相変わらず。これで独り立ち出来るのか心配。
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# by yamanochika | 2015-12-30 23:55 | 海外ミステリ

日々読んだ本の記録。他映画、漫画等の感想などあれこれ。感想はネタバレありです。ご注意下さい。
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