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十の罪業 Black

エド・マクベイン編 創元推理文庫刊

エド・マクベインが編集した人気作家競作アンソロジーのBlack編。こちらの収録作家はジェフリー・ディーヴァー、スティーヴン・キング、ジョイス・キャロル・オーツ、ウォルター・モズリイ、アン・ペリーの5人。こちらは序文なし。個別の感想は以下のとおり

「永遠」ジェフリー・ディーヴァー

中編というよりも短めの長編といってもいい位のボリューム。その分本書の他作品は短かった気がします。優秀な数学者でありながら刑事という職業を選んだシムズ刑事を主人公にした一編。ある老夫婦の自殺が統計学的に見て異常である事に気づいたシムズが捜査の必要を訴え、ベテラン刑事と組んで自殺の裏に潜んだ陰謀を暴くという内容。

中編でもジェットコースターに乗ったかのようなディーヴァー節は相変わらずで最後までどんでん返しの連続。「永遠」の意味が分かる中途からの展開はやや強引な感じでしたが、刑事としては新米のシムズが反目していたラトゥーアと協力しながら捜査官としての経験を積んでいく場面やラストの展開はさすが。キャラクターとしてはラトゥーアの方に肩入れしてしまうんだけど、これもその内シリーズ化しそうですね。

「彼らが残したもの」スティーヴン・キング

9.11事件をモチーフにした作品。保険会社を辞めてリサーチャーの仕事を始めた私の前に、唐突に現れたモノたち。それは保険会社に勤めていて死亡したかつての同僚たちのお気に入りの品々だった…。

主人公の周辺が明かされていくにつれ、彼が勤めていた保険会社があのビルに入っていたこと。あの日仕事を休んだことで彼が助かった事、が判明していく。何故、あの日あの場所で失われたモノが彼の前に現れて捨てても戻ってくるのか。静かな救いの物語。救われたいと思っているのが死んだ人なのか、遺族なのかは分からないけど。

「玉蜀黍の乙女(コーンメイデン) ある愛の物語」ジョイス・キャロル・オーツ

ある少女の誘拐事件を書いた作品。登場人物たちの視点は交わらず、各々の心情だけが書き込まれていく。その交わらなさに不思議な味わいがあって、話に引き込まれていく。ローティーンの少女の自分が絶大な権力を持っているという全能感が痛々しいんだけど、客観的に見るとコーンメイデンよりも「悪い子」の方が不幸なんですよね。それをある日自分で気が付いてしまったらもっと痛くて見ていられなかったかも。

「アーチボルト 線上を歩く者」ウォルター・モズリイ

ジャーナリズムを専攻する若者フィリックスが、代書人という職業に興味を持ち応募した途端に奇妙な出来事に巻き込まれていく。

自分を線上を歩く者と称するアナーキスト、アーチボルトの強引さにフィリックスが巻き込まれいく巻き込まれ型の話なわけですが、二人のやりとりが楽しい。強引なアーチボルトに引き回されるのかと思いきや、フィリックスのペースが勝る時もあるし。最初はアナーキストの妄想なのかと思った話がどんどん現実化していく恐ろしさ、昨日までは確かだった現実があっという間に覆っていく足下が溶けていく感じ。いわば悪夢が現実化したかのような話運びながら、ユーモアがあって、そこが昔ながらのホームズ・ワトソンもののような面白さを醸し出しているのではないか。

「人質」アン・ペリー

北アイルランドのプロテスタント指導者が、家族で休暇に行った先でIRAに襲われ人質として捕らわれる。

元々、カトリックとの徹底的な抗戦を呼びかけているカリスマ的指導者である夫は、ある意味自分から家族を遠ざけている。テロリストに人質に取られている緊迫した状況下で、争うのが嫌で夫に従ってきた妻が、中年女性の知恵を絞って家族を解放するために奮闘する。その解放が現在の人質であるという状況と同時に、家族が人質に取られているかのような状況から、の二重の意味を持っていて、女性の内面描写が面白かった。彼女の葛藤や、最後の場面は共感する女性も多いのでは?
by yamanochika | 2009-03-17 01:50 | 海外ミステリ
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