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夜愁 上・下





サラ・ウォーターズ著 創元推理文庫刊

1947年、第二次大戦が終わった直後のロンドン。屋根裏部屋の下宿人として隠棲生活を送るケイ。恋人のジュリアへの愛情を抑えられず、ジュリアから愛されない事に苦悩するヘレン。ヘレンの同僚で美人のヴィヴもまた恋人への鬱屈を抱えており、その弟のダンカンはかつて刑務所にいて今も外の生活に馴染めないでいる。彼らに何が起こったのか。物語は彼らの過去にさかのぼり、1944年、更に1941年に彼らが出会った発端が語られていく。


タイトル通り、愁いに満ちた苦みが効いている作品。ウォーターズ作品といえば女性同士の同性愛がテーマといっても過言ではありませんが、本作品ではケイ、ヘレン、ジュリアの三角関係が一番生々しさと暗さを伴っている。ヘレンが1947年に味わっている痛みは、彼女が過去にケイに与えたものでもあり、更に言えばかつてジュリアが味わったものでもあるので、3人の関係の救われなさ、どん詰まり感は他の関係よりも強いように感じる。出会ったときにあれだけ美しかったものが、何故このような終わり方を迎えるのか。出会いを読んでから1947年のケイについてを振り返ると虚しさや侘しさが募る。

ヴィヴィアンとレジーの関係も、1947年にはかつての愛と情熱の亡霊のようなものになっていて、二人が会っている場面には空々しさが漂う。逆にこの二人の場合別れが示唆された後の方がヴィヴの気持ちにも未来にも明るさが感じられて、ヴィヴとダンカンについては閉そく感が消えていくような終わり方だった。
by yamanochika | 2010-02-21 13:00 | 海外ミステリ
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