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予告された殺人の記録

ガルシア・マルケス著 新潮社刊

町で一番の美女アンヘラが外からやってきた名士の息子に見初められ結婚する。しかし町を挙げての祝賀パーティ夜、処女ではなかったという理由で花嫁は実家に戻された。家の名誉を穢したと、花嫁の兄弟は妹が言った相手の男サンティアゴ・ナサールを殺すために出かけ、町の半数以上の人間が彼が殺害されることを知っていたのにそれを止めようと何かした者はほとんどいなかった。

まるで宿命づけられていたかのように、数々の前兆や彼に忠告をしたり、兄弟を止めようとした人たちの努力は空回りし、サンティアゴ・ナサールは死へと向かっていく。事件の20年後に、作家が当時を振り返って関係者などの証言を入れながら書いたノンフィクションスタイルを取っていて、時系列は何度も行きつ戻りつし、螺旋を描くように周囲の状況や関係者が考えたことが語られていき、最後の殺害の場面でクライマックスを迎える。

「宿命付けられていたかのように殺害された」というのがこの本を読んだ時に残る強烈な印象で、何をしても彼がその運命を免れることは出来なかったと思わされる。魔術的なリアリズムというけれど、ぐるぐると回りながら書かれていく周囲の状況や、もたらされた数々の前兆がそう思わせるのでしょうか。ただ花嫁がその名前を挙げただけ。本当に彼が花嫁の処女を奪ったのかどうかすら作中では明らかにされていない。本当か、濡れ衣か、分からないまま彼は殺されていく。その悲劇に、どうしようもない運命の力の惨さが殺害シーンを最後に持っていくる事でより強調されているように感じる。

この話はマルケスが若い頃に彼の親戚の女性の身に起きた実際の事件をモデルに書かれていて、作中にマルケスの母親も実名で登場している。しかし、殺人事件が起きた遠因は花嫁が相手の名前としてサンティアゴ・ナサールを挙げたことであるのに、ナサールに比べると彼女の印象は驚くほど薄い。もっと話の焦点が当たってもいい人物なのに。それだけマルケスにとって彼女は印象が薄い人物だったんでしょうか。
by yamanochika | 2010-10-11 12:47 | その他読んだもの
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