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ジェイン・オースティンの思い出

J・E・オースティン=リー 著 みすず書房刊 中野康司訳

ジェイン・オースティンの甥によるジェイン・オースティンの回想記。現在オースティンの言葉として引用されているものは、ほぼ子の著書によるもの。後書や解説などで軽く触れられている経歴は知っているけれど、実際にどんな所で育ったのか、そしてどんな風に生きたのかを知りたくて読んでみました。

ジェーン・オースティンの生地や先祖を語るにあたって、著者がジェーンの祖母や曾祖母が書いた手紙を載せているんだけど、これが案外面白い。18世紀初頭から中旬位にかけて、既に昔からの貴族階級がつつましい暮らしをしていたのに対し、貿易などで富を築いた新興階級が台頭していて、彼らの方が豪勢な暮らしをしているんですね。そういう事情が、貿易商の未亡人である祖母に甘やかされている娘にあてた母親の手紙から推察出来て面白い。

更にヴィクトリア朝人でもある著者が、19世紀初頭のジェーン叔母の時代は、今なら召使がやるような仕事(針仕事や馬・猟犬の世話)等を家の住人が自分たちでこなしていた、と当時の生活を説明している箇所があるんですが、それだけヴィクトリア朝(特に前半)はイギリスが他国を圧して繁栄を謳歌していた時代なんだという傍証になっている。自分たちがやっていた仕事を人に回せるだけのお金があって、それで空いた時間を趣味に当てられるよになったってことですもんね。

と冒頭はジェーン・オースティンとあまり関係ない所で盛り上がってしまったんですが、掲載されているジェーン・オースティンの手紙文がめっぽう面白い。人の特徴をうまくとらえて、ユーモアのある文章を書くんだけど、それでいて意地悪ではないんですよね。晩年、本を出版しある程度有名になった後、彼女にこういう設定で書いたらいいと色々な人が薦めてきた内容をまとめた文章なんて読むと、結構毒舌な面があったようですが。

これまで分からなかった、ジェーン・オースティンは人生のどの時代にバースにいたのか、が分かってちょっとすっきりしました。「高慢と偏見」の登場人物のその後とか、人に聞かれるとこの後はこうなったのよ、というお話をしてくれていたらしく、その後のエピソードが少し載っていたのも嬉しい。

そして未完の遺作となった「サンディリオン」。レジナルド・ヒルがこれを元に書いた小説を先に読んだんですが、確かに登場人物と背景の設定はオースティンそのまま。傲慢で俗物な金持ちの未亡人、彼女の遺産を狙う親族たち、とくれば推理小説に仕立てたくなるもので、これをオースティン本人が書いたら、どんな作品になっていたのか読んでみたかった。ほぼ登場人物の紹介の部分で終わってしまっているんですが、すごくキャラが立っているんですよね。19世紀の人ではなく、現在にいてもおかしくなさそうな普遍性があるのがすごい。そこが、オースティン作品の全てに共通した魅力なんですけれども、オースティン自身が非常に生き生きした女性だったのかなーというのが本書を読んだ感想です。ジェーン・オースティン作品が好きなら読んで損なし。
by yamanochika | 2011-08-20 02:25 | その他読んだもの
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