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アンダーワールドUSA 上・下

ジェームズ・エルロイ著 文藝春愁社刊

アメリカの狂騒の60年代、1958年から1972年までを切り取ったジェイムズ・エルロイ版のUSAトリロジー。三部作の悼美を飾る作品が遂に発売された。途中エルロイがハリウッドで脚本を書くのにハマっていてなかなか続きが出ずにやきもきしましたが8年ぶり!の完結編が出てほっとしてます。

過去の作品ではそれぞれケネディ大統領暗殺、ロバート・ケネディ上院議員、キング牧師の暗殺が書かれていたんですが、今回の背景となるのはアメリカ大統領を目指すニクソンとハワード・ヒューズによるラスベガスの買収。もっとも過去の政治家達に比べると、ニクソンの存在感は薄い。作品の最後の方でウォーターゲートでの盗聴要請がされていて、そこでニクソンの今後が示唆されている位。この三部作を通した影の主役といえるのは、その死まで書かれているFBIのフーヴァー長官だったのだな、と今更ながら気付かされました。

そして作品を引っ張る主題となるのは、今回も女たち。「覗き屋」とあだ名される探偵の下働きをしている青年クラッチ。自分から金を盗んだ女を捕まえて欲しいという依頼を受け、謎の女グレッチェンを探すうちに、グレッチェンが会っていたもう一人の女に取りつかれる。そして彼女を追ううちに、アメリカの闇にいた男たちに巻き込まれていく。

前作からの登場人物、ドワイト・ホリーと、ウェイン・テッドロー・ジュニアも健在。徐々に壊れていくウェインと、病みつつも現実に踏みとどまるドワイト、という二人組。ドワイトが過去に家族のように面倒を見ていたウェインに対して深い愛情を抱いているのに対し、ウェインのドワイトへの距離感は広い。ドワイトが便宜を図る見返りに、情報員として使っている左翼の女たちにも愛されているのに対し、ウェインが全てを失っていくのは、この二人の他人への距離感の違いかも。

全てを見ていただけのクラッチは巻き込まれて当事者となっていく内に、大人へと変わっていく。大人というのともまた違うのかもしれないけど。60年代の熱狂、ヒッピーやフラワーチルドレンの時代は終わりを告げ、70年代に入る。その熱狂が残っているドミニカでの描写はすさまじい。人の命はこれほど軽いものだったんだと驚く。そして当事者となったクラッチは、最後の幕を引く。その時はもう熱狂さはなく、静かな行動があるだけなんですね。そこに彼の成長と、60年代の終焉を感じた。

それにしても、謎の女が謎であった時、彼女にものすごい魅力と引力を感じたんですが、謎の女が謎で無くなった時、そこにいたのは苦労を重ねてきた普通の女性がいただけでした。そういう意味で謎の女のベールが明かされてしまったのは残念。
by yamanochika | 2011-09-24 10:40 | 海外ミステリ
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