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おまえさん 上・下



宮部みゆき著 

本所深川の同心 平四郎と甥の弓之助が活躍するシリーズ3作目。

過去2作は湊屋を巡る因縁が話の中心に隠されていたので、あの2作で終わってしまったのかと思っていたんですが、今回は湊屋とは関係ない、新しい話が展開されて一安心。話のそこそこに、過去の登場人物たちの消息が書かれていて、事件とは関係無くなっても彼らの世界は動いていて、元気に暮らしているだなーというのが分かったのは嬉しかった。

それはともかく、今回起きたのは、辻斬りにあった身元不明者と、最近話題の痒み止めの新薬「王疹膏」を売っていた瓶屋の主人新兵衛が殺された事件。遺体の検分を行った八丁堀のご隠居、源右衛門が二人の斬り口が全く同じだと言った事から、二つの事件が関連づけて捜査される。

読み始めたら本を置くのが辛くなるよような面白さ。宮部さんの書く人情の世界と、時代劇は本当に相性がいい。将来を嘱望される、父親の後を継いだばかりの同心信之輔と共に、捜査にあたり平四郎。つまるところ、この色々と悩み多き若者の成長譚となっているのだけれど、最後まで読むと、彼がめっぽう良い男に思えてくるのが不思議。人に対する見方なんて、ちょっとした事で表と裏が入れ替わる、とは作中での言葉ですが、一番印象が変わったのはおでこの母親。冒頭の気持ち悪さからこれだけ清々しい気分で終わるとは。

それにしても、読みながら、ついつい湊屋の娘さんと、今回の瓶屋の娘さんとを比較してしまった。源右衛門さんの身の処し方は、収まる所に収まったわけだけど、身につまされるものがあります。ご隠居としてこれからも長生きして欲しいものだけど。

そして今回初めて弓乃助の家族や家庭問題が詳細に登場。信之輔の気持ちも分からないではないんだけれど、淳三郎兄さんは女はもちろん男にも人気あるだろうな。というか、女にもてるだろう、というのはよく分かる。適度に顔が良くて、人あしらいが上手いもの。弓乃助も結局淳三郎兄さんとが一番仲いいですしね。人あしらいが上手いといえば実は平四郎もそうなんだけど、あのひょうひょうとしたおっさんは読んでいて本当に安心する。

今後このシリーズが続くとしたら、まっすぐすぎて躓きそうになった信之輔と、淳三郎兄さんの活躍に期待。
by yamanochika | 2011-10-03 19:19 | 国内作家
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