S・J・ローザン著 創元推理文庫刊 同業者のピラースキーから上海から持ち出された宝石探しの手伝いを依頼されたリディア。しかし捜索を開始してまもなく、ピラースキーが殺害されてしまう。盗まれた宝石の中には伝説的なブローチ<シャンハイ・ムーン>が含まれていたらしい。この事が事件に関係あるのだろうか。リディアは<シャンハイ・ムーン>の背景について調べ始めるが…。 今回の主人公は中国系アメリカ人のリディア・チン。前作「冬そして夜」で起きた事件で傷心のビル・スミスはリディアとも連絡を絶ち一人閉じこもり中。いい相棒だった二人だけど、このままビルは戻ってこないのか?という所から話が始まって、宝石に纏わる謎と殺人事件に入っていく。 リディア主役の時のこのシリーズの魅力は、リディアの軽やかさとアジア人種ならではな家族や親族との繋がり。今回でいえば、ビルの事をリディアの近くにいるゴミ位にしか思ってない母親が、ビルの方から連絡を絶った事を不愉快に思っている様子。ぽんぽんと言いあっているようでもお互いに細かい情が通っている事が伝わってくるんですよね。その母子の関係にも重大な変化が訪れて、本書で語られているもうひと組の親子、別れたきり遂に再会することが無かったユダヤ人の母子の話と相まって、一抹の寂しさを感じるのです。変化しない関係なんてないし、変わることが悪い事ではないんだけれど。 そして家族の歴史、というのは本書の中で大きなウェイトを占めています。オーストリアから何とか脱出してきたユダヤ人の姉弟。しかしアメリカはユダヤ人を難民として認めず、各国から何人という枠を作って、その人数しか移民を認めなかった。その為に多くのユダヤ人が当時まだ自由に出入りできた上海に逃れた。という歴史があった事を今回初めて知りました。 宝石の来歴を知る為に、彼女が残した手紙を読むリディア。その手紙で語られるユダヤ人迫害の歴史と、第二次大戦下の中国の歴史。一つの家族が押しつぶされていく様子。それでも、上海での生活を語るロザリーの手紙は生き生きした描写であふれていて、リディアではないけれど彼女に肩入れしたくなってしまう。過去の歴史と現在を繋ぐ糸が上手にう紡がれていて、読み応えがあります。家族だからこそ大切であるし、家族だからこそ解決するのが難しい問題がある。なかなかに皮肉で、それでも最後に寂しさと爽やかさが同時に残る、余韻のよさが素晴らしい。
by yamanochika
| 2011-10-25 01:08
| 海外ミステリ
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