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解錠師



スティーヴ・ハミルトン著 ハヤカワ・ミステリ刊

8歳の時に事件に巻き込まれ口がきけなくなった少年マイクル。高校生になった彼は自分に絵を描く才能と鍵をあける才能があることを知る。ひょんな事から伝説の解錠師の弟子となった彼は天才的な解錠師となるが…。

物語は、今は30間近となったマイクルが自分の過去を語り始める所から始まる。この時点でマイクルは10年近くオレンジ色の繋ぎを着て過ごしていると自分が刑務所にいることを明かしており、マイクルの物語がどこに終着するかは読者に提示されています。そこから、そこに至るまでの物語が語られていくんだけど、思い出として語られる過去は時系列がバラバラで、行きつ戻りつしながらマイクルが口がきけなくなった過去。始まりの地点といえるその事件についてはなかなか触れられない。

初めて関わった事件、あの事件の後、伯父に引き取られた後の生活。どうして解錠師の道に踏みいれることになってしまったのか。初めて愛した少女アメリアとの出会い。最初は話の飛び方に戸惑うんだけど、マイクルが高校生になって、この道に足を踏み入れてしまう1歩目を刻み始めてから俄然話にのめり込んでしまう。

彼の道の始まりには、語ろうとしてもどうしても語る事が出来なかった、あの水の底にある箱がある。なので当然、彼が遂にアメリアに過去を語り始める時、そこが一番の盛り上がる場面だと思っていたんだけど、実際はそのあとに一番の山場が来るんですね。それにびっくりした。一つの繋がっているエピソードではあるんだけど。

マイクルがどうして解錠師になったか、その動機の一つにはアメリアがいて、だからアメリアとマイクルの交流、彼らの「会話」が進み、二人が理解しあえばしあうほど切なさが増してくる。でもそれ以上に切なく感じたのは伯父さんの気持ち。人の世話をするのが得意なわけではない伯父さんが、彼の為にバイクを買ったり、どんな気持ちであの家で待っていたのかと思うと、胸が締め付けられます。語られる場面は少ないんだけど、最後に故郷に戻ったマイクルも、出て行った時のマイクルと違って伯父さんの気持ちを感じたはず。

読み始める前に、ミステリとしてだけではなくて青春小説としての甘酸っぱさを期待していたんだけど裏切られませんでした。ミステリとしても、少年の成長物語としてもお奨め。
by yamanochika | 2012-01-09 22:13 | 海外ミステリ
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