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火焔の鎖


ジム・ケリー著 創元推理文庫刊

27年前に起きた米空軍の輸送機墜落事故。生存者は墜落地にあった農場の娘マギーと彼女が炎の仲から救った乗客の赤ん坊だけだと思われていた。しかし死に瀕したマギーは、自分の息子と乗客の赤ん坊をすり替えていたと告白する。彼女は何故我が子を手放したのか。立会人として知人であるマギーの告白を聞いてた新聞記者のドライデンは、不法移民や少女失踪事件を取材しながら真相を探っていくが、取材を続けるうちに沼沢地(フェン)に残された機関銃座で拷問の末死亡した男の遺体を見つけてしまい…。

1作目がドライデンの個人的な事情に関わるような事件だったので、2作目以降がどうなるのか気になっていたんですが、作風は変わらず安心しました。重厚な作風で、悲惨な事件を扱っているんですけれど、ホルトとドライデンのやり取りなどユーモアが散りばめられていて、暗くなりすぎるのを抑えている。ドライデンがホルトへ友情を感謝しているのを示そうとして、感情の吐露に慣れていなくてかえって居心地悪く感じてしまう所など、何だかこちらまでもじもじしてしまう。細かい描写にさらっと伏線が隠されていて、あとであれはそういうことか、と思い当たるのもミソ。

暑い夏と、男女の愛情の縺れが描かれていて、マギーと彼女が子供を作った相手、そしてマギーの子供たちと一つの相違が生んだ悲劇が紡がれていくんでけど、ドライデンと妻ローラの関係も、この話の副旋律の一つ。ローラは意識を閉ざしたまま、しかし彼女と全く意志の疎通が図れないわけではない、という現状が一番つらい。けれど、最後に現れた時のかなたからやってきたような彼女からのメッセージが、救いようがない悲劇に明るさをもたらしていて、読後感が爽やか。
by yamanochika | 2012-02-27 00:58 | 海外ミステリ
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