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イサークの図書館 失われた都 上・下



ケン・スコールズ著 早川文庫刊

遥か昔に高度な文明が崩壊した世界。アンドロフランキン教団は過去の知識と遺物を集め、限られた知識だけを外部に開示することで、世界を支配してきた。しかし、過去に失われた滅びの魔術を知った男が、その魔術を使ってアンドロフランキン教団の都、ウィンドウィアを崩壊させてしまう。

という、広大な都が一瞬にして滅する場面から始まるこの物語。都と過去の知識を滅ぼした監督卿、それに対抗し鋼男を使って図書館の再建を目指す、流浪の民の王ルドルフォ、謀略の糸をめぐらす経済界の大立者と色々な人間の視点から語られる群像劇となってます。

基本は、それまで世界を支配していた価値観が一瞬にして失われ、空白となった世界で誰が覇権を握るのか、アンドロフランキン教団に変わる新しい光をどのようにして作るのか、という争いになるのかな。背景だけ見るとかつての<若き神々の時代>の遺物なんて明らかに拳銃だし、鋼人と呼ばれているのはロボットだし、SFっぽい要素もあるんですが、世界観は剣と魔法の世界。戦争と謀略を交えながら、<崩壊後>の世界を生きる人たちの争いは滅法面白い。崩壊の、更に背後には蠢く敵の存在が見え隠れしていて、なかなか気になる終わり方になってます。

一番感情移入してしまったのが、偽善に嫌気がさして自分を「暗殺」させて教皇から退いていた老漁師ペトロヌス。酸いも甘いもかみ分けた爺さんの章はほろ苦さと共に噛み締めました。続きがあるらしいんで再登場を願いたいんですが、これからは若者の話がメインになるんだろうなあ…。魅力といえば、自我を持った鋼人であるイサークは人間よりも人間っぽい。シリーズタイトルとして冠されているので、彼がどのような人間になっていくのか、もこの話のテーマの一つなんでしょうね。続刊は決まってないようですが、出来れば続き読みたいなあ。
by yamanochika | 2012-03-14 23:34 | SF・FT
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