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フリント船長がまだいい人だったころ



ニック・ダイベック著 ハヤカワミステリ刊

秋になると男たちのほとんどはアラスカでカニ漁に励み、漁業で成り立っているアメリカ北西部の海辺の町、ロイヤルティ・アイランド。14歳の少年カルも、大人になってアラスカへ漁へ行く日を夢見ていた。しかし漁船団の社長であるジョン・ゴーンドが死亡した事で状況は一変する。ジョンの息子リチャードは一度も漁にいった事が無い町の異分子で、漁船を日本人へ売り払うと宣言したのだ。町の危機に大人たちが取った行動は…。

フリント船長は、「宝島」に出てくる海賊たちのボスで、宝島に強奪したお宝を隠し、そこに宝を運んだ部下たちを殺した悪党。カルがまだ小さかった頃、半年しか家にいない父親が「宝島」に夢中になった息子の求めに応じて、フリント船長が悪党になる前、まだいい人だった頃の船長の話を作って聞かせてくれた。フリント船長にだっていい人だった時代はあった。では彼はどこで悪事を犯すことになってしまったのか?

ここで書かれているのは大人たちがやった事よりも、カルの少年時代の終わり。カリフォルニア育ちの母親と北西部の漁師である父親の仲はあまり上手くいっておらず、カルは両親に対して愛情と憎しみの入り混じった複雑な感情を抱いている。それがカルとジェイミーを隔てた一番の理由だったのではないか。自分が属したかった場所に受け入れられず、家族を愛してはいるけど、どちらとも一緒にいられない。なんともほろ苦い話です。

起こってしまったことよりも、リチャードのああいう姿を見てしまって、彼と共通の部分が多いカルはどんな人生を送るのか、考えてしまった。
by yamanochika | 2012-09-07 23:16 | 海外ミステリ
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