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世界樹の影の都



N・K・ジェミシン著 ハヤカワ文庫刊

「空の都の神々は」から10年後の世界を舞台にした続編。

神々の戦いに勝利した光の神イテンパスの一柱の神による支配が終わりを告げてから10年。天空の都市スカイは世界樹に支えられ、そこに住む人々は街をシャドーと呼ぶようになっていた。シャドーに住む盲目の芸術家オリー・ショースは、不死であるはずの子神の死体を発見し、オリーの家に居候している謎の男シャイニーと共に陰謀に巻き込まれていく…

小国の指導者でありアラメリの血を引く女性イェイナの生死を賭けた戦いから一転、「魔法」を見る目を持っているけれど普通の女性であるオリーの一人称で物語が進んでいく。前作が<夜の君>ナハドとイェイナの物語なら今作はイテンパスの側から見た物語。なぜイテンパスは狂ってしまったのか。前作を読んでいた時はイテンパスにあまり同情も、共感も出来なかったのだけど、これを読むとイテンパスに少し同情してしまう。一番怖いのは、まっすぐな女の熱情、なんでしょうか。

10年を経ても人間として全く成長していなかった(つまりいけすかない奴として登場した)イテンパスが、オリーと関わることによってようやく愛情や、変化について学び始める。オリーの家を出ていく、その後ろ姿が印象的。いつかは彼も再び信頼することを覚えて神に戻れるのではないかという余韻を残す終わり方。しかしこの三柱の神々の関係は複雑だなあ。

物語としてはこれ1冊で完結していて前作を読んでいなくても問題はないんですが、シャイニーの正体とか前作を読んでいれば登場シーンで分かるし、あの彼がその後どうなったのかの答えや、ちらほらとほんの少しずつだけど前作の登場人物たちが顔を出すので、読んでいた方がより楽しめると思います。

たった10年位の時間では大きな変化はまだ実感できていないけど、それでも世界が確かに変化し続けているのが感じられて、この後の世界がどれだけ変貌を遂げたのかが見てみたい。3部作の最終作は更に時代を経た舞台となっているようで、読んでみたいなあ。
by yamanochika | 2012-10-22 00:20 | SF・FT
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