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スパイたちの遺産

ジョン・ル・カレ著 早川書房刊

数十年の時を経て書かれた「寒い国から帰ってきたスパイ」や「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の前日譚であり後日談。

引退し、フランスの自分の農地で暮らしていたピーター・ギラムのもとにイギリス諜報部から招集がかかる。かつてギラムが関わったスパイ事件で亡くなった男女の遺族が彼やイギリス諜報部を訴えようとしている、と糾弾を受けるギラム。当時の責任者であったスマイリーの行方が分からないまま、ギラムは過去を回想し、思わぬ真相にたどり着いていく。

現在のギラムがさらに10年上前に弾劾のためにイギリスに呼び出された出来事を振り返る、3重構造の話。ギラムとともに、ギラムの視点で振り返る「寒い国…」の物語は、どこで息をつげばいいか分からない位濃厚で、今までと全く違う視点で見ることになった。「ティンカー」から始まるカーラ3部作はもちろん、何より視点が変わるのは「寒い国から帰ってきたスパイ」。物語が色あせることなく新たな色に塗り替えられていくのが新鮮で、もう一度読み返したくなった。

嘘をつくことが第2の天性となっているようなギラムが、諜報部から糾弾を受け詰問されながらも息をつくように嘘をつき、自分の身を守る行動をとり、機密を守ろうとする。どこに機密が隠されているのか。種明かしにはぞくぞくした。最後のスマイリーの言葉が著者からのメッセージのように感じる。



by yamanochika | 2018-02-02 23:43 | 海外ミステリ
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