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さよならを言うことは

ミーガン・アボット著。ハヤカワミステリ刊。

早くに両親を亡くし、兄のビルと2人よりそうように生きてきたローラ。しかし、まるで事故のように2人の生活に入ってきた魅力的な若い女性アリスと兄が結婚した事から状況は一変する。兄の為に2人を祝福するローラだが、ハリウッドの撮影所に勤めていたアリスには謎めいた友人が多く、アリスの行動もローラの疑惑を引き立てる。彼女の過去には何か忌まわしいものが隠れているのではないか。やがて疑惑は現実のものになってゆき…。

タイトルは50年代のハードボイルド小説の中にある一節、「さよならを言うことはほんの少し死ぬことと似ている」から。1950年代のロサンゼルスを舞台に、ハードボイルドを強く意識して書かれた小説となっている。

作品はローラ視点で、全てが終わった後から振り返る形で書かれており、徐々に「何か」が起きるクライマックスへ読者を導いていく。しかしこの話がボディブローのように効いてくるのは、ローラのアリスに対する疑惑が、当然のもののように見えながら、自分の兄を取った女への嫉妬が見え隠れする、精神的な恐怖の部分。

ここまで仲がいい兄妹の間に割り込んでしまった女性の恐怖はいかばかりだったか。心中察してあまりまるものがあります。最後に明かされる、ローラとアリスがよく似ている(らしい)という事実。ローラが付き合う男へのビルの嫉妬心。こういうものを考え合わせて、書かれていないことを想像すると、よりじわじわした怖さが募ってくる。

アリスはハリウッドに取り憑かれた女だったかもしれませんが、何よりこの兄妹に会った事が、彼女を救ったかのようにみせて更に追いつめる結果になったように思えます。
by yamanochika | 2007-06-11 00:34 | 海外ミステリ
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