カテゴリ:海外ミステリ( 584 )

ジョン・ル・カレ著 早川書房刊。

表紙が非常にかっこいい、ジョン・ル・カレの回想録。
時系列順にはなっておらず、過去の仕事の事、巡り会った人々、父親の事などが一つ一つ完結したエピソードとして語られている。
回想録、というよりもエピソードに必ずオチがついてまとまっているのでエッセイのような感じ。
本をもとに香港を舞台にして小説を書き上げ、実際に香港を訪れたら資料の頃から地理が変わっており、慌てて書き直しし、原稿を差し替えたこと。それからは小説の舞台とする場所に必ず取材旅行に行き、関係者に取材していること。
そして訪れた場所や、出会った人々の話。一番多いのはドイツの話でしょうか。この話が、この小説の元ネタになったんだなというエピソードがわかり、興味深い。
印象に残ったものでは、イスラエルへのテロを画策したものの、イスラエルに入ってすぐに拘束され収容された西ドイツ女性の話。
話の最後に、それまでは英語しか話さなかった看守を務めていた責任者が訛のない完璧なドイツ語を話していることに気づく。カレがそれに気づいたことに気付いた看守は、「彼女とドイツ語で会話したら何をしてしまうか分からないから英語で話しをするように努めている」と説明する。「ダッハウにいたので」。
静かな話なのにすごみを感じるエピソード。

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by yamanochika | 2018-02-22 23:48 | 海外ミステリ

キリング・ゲーム

ジャック・カーリィ著 文春文庫刊。

モビールで起きた複数の殺人事件。殺害方法はバラバラで人種や年齢も様々だが、どうやら同一人物の犯罪であるらしい。彼らを結ぶものは何か、そして犯人の動機は?

カーソン・ライダーシリーズの最新作。
ライダーたちが捜査を進める一方、犯人である人物の視点で独白が入る。ルーマニアで心理実験の被験者にされた犯人が誰であるかは分かるが、動機はつかめない。一方で、バラバラで無秩序な連続殺人事件が起きるのが一番怖いと話していたライダーは、まさに恐れていたような事件のために追い詰められながら、必死に手がかりを探す。

サスペンスとミステリのいいところを一挙取りした作品で、かなり楽しめた。犯人の動機が分かっても、さらに驚きが待っている。早い段階で伏線は張られているのだが、あのシーンまでそこがこうつながるとは思わなかった。事件としては解決しているけれど、ある意味解決していないので、今後の話にこれが生きてくるのか非常に楽しみ。

続刊を待っています。

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by yamanochika | 2018-02-22 23:37 | 海外ミステリ

スパイたちの遺産

ジョン・ル・カレ著 早川書房刊

数十年の時を経て書かれた「寒い国から帰ってきたスパイ」や「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の前日譚であり後日談。

引退し、フランスの自分の農地で暮らしていたピーター・ギラムのもとにイギリス諜報部から招集がかかる。かつてギラムが関わったスパイ事件で亡くなった男女の遺族が彼やイギリス諜報部を訴えようとしている、と糾弾を受けるギラム。当時の責任者であったスマイリーの行方が分からないまま、ギラムは過去を回想し、思わぬ真相にたどり着いていく。

現在のギラムがさらに10年上前に弾劾のためにイギリスに呼び出された出来事を振り返る、3重構造の話。ギラムとともに、ギラムの視点で振り返る「寒い国…」の物語は、どこで息をつげばいいか分からない位濃厚で、今までと全く違う視点で見ることになった。「ティンカー」から始まるカーラ3部作はもちろん、何より視点が変わるのは「寒い国から帰ってきたスパイ」。物語が色あせることなく新たな色に塗り替えられていくのが新鮮で、もう一度読み返したくなった。

嘘をつくことが第2の天性となっているようなギラムが、諜報部から糾弾を受け詰問されながらも息をつくように嘘をつき、自分の身を守る行動をとり、機密を守ろうとする。どこに機密が隠されているのか。種明かしにはぞくぞくした。最後のスマイリーの言葉が著者からのメッセージのように感じる。



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by yamanochika | 2018-02-02 23:43 | 海外ミステリ

湖の男

アーナルデュル・インドリダソン著 東京創元社刊

涸れた湖の底から男性の白骨遺体が発見された。遺体には壊れたソ連製の盗聴器が巻き付けられており、盗聴器の年代から冷戦時代に行方不明となった男性を探すうちに、一人の失踪者が浮かび上がる。農具のセールスマンをしていた男は偽名を使っており、婚約者を残したまま姿を消していた。男は何者で、彼の身に何が起きたのか。

身近な誰かが行方不明となったとき、取り残された人たちには彼らが自らの意志で姿を消したのか、それとも死んでいるのかすら分からず、彼らがどうなったのかいつまでも苦しむ事になる。捜査官の一人であるエーレンデュルもまた子供の頃に行方不明となった弟がおり、弟がどうなったのかが分からない事に今でも心を捕らわれている。読みながら一番伝わってきたのは、大切な人の行方が分からなくなった人々の辛さ。ソ連製の盗聴器から分かるように、東西冷戦時代のある出来事が発端になっており、冷戦時代が始まったばかりの東ドイツ、友人同士が相互監視する社会の恐ろしさもまたテーマの一つではあるのですが、愛する人がどこに行ってしまったのか、生きていてくれているのか、死んでしまったのか。死んだとすればいつ、どこで亡くなったのか、それすら分からないという辛さが最も哀切に伝わってくる。
なんともやりきれない。

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by yamanochika | 2018-02-02 23:36 | 海外ミステリ

死のドレスを花婿に

ピエール・ルメートル著

「その女、アレックス」を読んでから続けて読んだルメートル作品もこれで最後。
読み終わった後に後味の悪さが残るイヤミスでした。

最初は、キャリアを重ね幸せな結婚生活を送っていた女性ソフィが記憶障害を起こし、転落していく姿が描写される。記憶が飛んだ後に、自分が何をしているか分らない。ついには殺人事件を起きるが、自分が犯人なのか、そうではないのかさえ自分で確信がもてない。追われるままに逃げる彼女の追い詰められた姿と逃亡生活が切々と描写されたあと、一転して彼女を追いつめ、「病気」になるように仕向けた男が登場し、事件の裏側が語られていく。

最終的に、ある意味すっきりする展開にはなるものの、犯人の追い詰められ方も後味が悪く、しかし彼がやった事を考えると当然の報いでもあり、しかしながら追い詰められた姿を見るとやはり後味が悪い。最低の男なのに、なんだか同情してしまう。それが嫌な後味になって残るのだと思う。
復讐が終わったところで、ソフィの失ったものが戻ってくるわけでもないしねえ。

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by yamanochika | 2018-01-19 00:18 | 海外ミステリ

傷だらけのカミーユ

ピエール・ルメートル 著 文春文庫刊

カミーユ警部3部作の完結編。

カミーユが付き合っている女性アンヌが宝石強盗に巻き込まれ重傷を負った。病院から連絡を受けたカミーユは上層部に自分とアンヌとの関係を隠したまま捜査を担当する。目撃者である彼女の命を執拗に狙う犯人。カミーユは残忍な強盗の正体を探るが、そのために警察内での立場も危うくなり…。

かつて愛する者を失い、再び愛する者を失うことを恐れるカミーユ警部の姿が痛々しい。前作に比べると、事件の様相がガラっと変わるような視点の変化はなく、作中での描写からおそらくこうであろうという通りの展開になるんですが、その分自分の運命について決断したカミーユとその孤独が身にしみる。

作品として綺麗に完結しているのですが、その後のカミーユの姿をほんの少しでも見てみたい。

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by yamanochika | 2018-01-19 00:05 | 海外ミステリ

天国で、また会おう

天国でまた会おう

ピエール・ルメートル著 ハヤカワミステリ文庫刊

第一次大戦の終盤、戦場で上官プラデルの悪事に気付いたアルベールはプラデルに殺害されそうになり、更に砲撃で生き埋めになってしまう。偶然アルベールの生き埋めに気付いた同じ部隊の年下の青年エドゥアールがアルベールを救ってくれたのだが、それには高い代償が伴うことになり…。

戦争と、それに伴う喜悲劇を描いた作品。群像劇と言った方ががいいんでしょうか。
アルベールは、決断が遅く悲観的で真面目な青年で、おおよそ主人公向きとは言えない人物。もう一方のエドゥアールは、明るく楽観的で大胆な青年ですが、戦争末期に大きな悲劇に見舞われ何もかもを否定して生きている状態。その2人が戦後、一緒に生きていかなくてはならなくなり、やがて国を巻き込む大きな詐欺事件を引き起こす。
アルベールの恨みが、自分を陥れて謀殺しようとした悪党であるプラデルに向けられているのに対し、エドゥアールの恨みは戦没者を英雄として祭り上げながら、生還した兵士を厄介者扱いするフランスという国家に向けられている。だからこそ、国が自分たちに賠償をするべきであると言う発想に行き着くわけですが、どこかあっけらかんとしていて、憎めない。
ここに、戦没者追悼墓地の建設で一儲けを企むプラデルの話が差し込まれ、三者三様の話が繰り広げられている。
一方では、いつバレるのか、どこに落ち着くのか息を飲む2人の計画があり、一方ではプラデルの悪事が暴かれ、彼に相応しい結末を迎えるのを固唾を飲んで見守る事になる。更にそれらに関わる人々の視点、生き様が差し込まれ何とも言えない群像劇が繰り広げられていく。
おそらく、一番スカッとする生き方をしているのがエドゥアールの姉でのちにプラデルの妻となるマドレーヌで、終盤のプラデルに対する啖呵は拍手喝采したくなる。


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by yamanochika | 2018-01-06 20:04 | 海外ミステリ

約束

約束

ロバート・クレイス著 創元推理文庫刊

ロス市警のスコット・ジェイムズ巡査と相棒の雌のシェパードマギーを主人公としたシリーズ2作目

前作は、銃撃され相棒を失ったPTSDに苦しむスコットとマギーの苦しみ、彼らが仲間として絆を育み寄り添う迄を中心に描かれていたのですが、今作は事件の描写が多い。

ある事件の犯人を捜索して、スコットとマギーが発見した家には容疑者らしき男の遺体と大量の爆発物が隠されていた。直前にこの家の住人である人物と相対していたスコットは、犯人に命を狙われるようになる。
一方、失踪した女性の捜索を依頼された私立探偵のエルヴィス・コールが依頼人の要請で訪問した住宅から、怪しい男が逃亡するのを目撃する。住宅からは遺体と大量の爆発物が発見されるが、依頼人との守秘義務を守ったコールは警察に疑われる事に。

スコットと探偵であるコールの2つの視点をメインに話がスピーディに進んでいく。複層的な視点で事件を見られるので飽きずに読み進められるし、何よりスコットとマギーの絆、スコットを守ろうとするマギーの献身に心をうたれる。

今回登場したコールとその相棒パイクは、作者の別シリーズの主人公だそうで、熟練したコール達の行動を見せる事で、前作よりアクティブな話に仕上がっている。
安定して読める良作。

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by yamanochika | 2018-01-06 19:48 | 海外ミステリ

悲しみのイレーヌ

悲しみのイレーヌ
ピエール・ルメートル著 文春文庫刊

最初に「その女、アレックス」を読んでいて何が起きたのかを知っていたので読んだ後の衝撃は薄かったものの、第1部と第2部での視点の切り替わり、見え方がガラッと変わる驚きは味わえた。
事件の被害者が多く、アレックスに比べても陰惨な描写が多いので読む人を選ぶ内容であるとは思う。カミーユは、自分の短躯の原因になっている母親に愛蔵半ばする思いを抱いており、妻であるイレーヌには母親に寄せるような思慕を向けている。ある意味イレーヌはカミーユに取って愛する部分しか無い母であり、作中で重要人物でありながら彼女本人の印象は薄い。
何というか、アイコンのような存在なんですね。もっとキャラクターがつくりこまれていたら、最後の出来事にもっと衝撃を受けていたかもしれない。

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by yamanochika | 2018-01-06 19:11 | 海外ミステリ

容疑者

容疑者
ロバート・クレイス著、創元推理文庫刊。

パトロール中に銃撃され相棒を失った刑事スコットと、戦争で大切な相棒を失った軍用犬のシェパード、マギーの出会いを描いたシリーズ。

作中で解決される事件自体は謎が少ないと言うか、おおやそこうなるだろうと思った通りに展開していくんですが、傷を負ったマギーとスコットの心の傷の描写、1人と1匹が仲間となり絆を築いていく描写が素晴らしい。犬好きにはたまらない作品ではないか。

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by yamanochika | 2017-12-24 20:58 | 海外ミステリ

日々読んだ本の記録。他映画、漫画等の感想などあれこれ。感想はネタバレありです。ご注意下さい。


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