カテゴリ:海外ミステリ( 592 )

許されざる者

レイフ・CW・ペーション著 創元推理文庫刊。

現役時代は角の向こうすら見渡せると言われた敏腕捜査官だった国家犯罪局の元長官ヨハンソン。脳梗塞に倒れ、命は助かったものの右半身に麻痺が残り、リハビリ中に主治医から相談をもちかけられる。25年前に起きた、9歳の少女の強姦殺人事件について、牧師であった父が犯人についての懺悔を聞いていた、というのを父の死の直前に打ち明けられたというのだ。事件はすでに時効を迎えており、犯人が分かっても裁くことはできない。しかし、犯人の名前だけでも分からないかとヨハンソンは調査を開始するが…。

脳梗塞をおこし、体に麻痺が残るヨハンソンは思うように捜査を進めることができない。そのため彼の代わりに手足となって動く人物が何人か登場する。25年前の未解決事件の犯人の特定だけでも物語の主題としては大きいが、ここで問題となるのは、どれほど非道な罪を犯していても事件は時効を迎えており、犯人に罪の償いをさせることができないという点になる。これがタイトルにかかるわけで、ヨハンソンがこの事件をどう解決しようとするかがもう一つの主題となる。
角の向こうすら見渡せる男、とうい言葉通りに、ヨハンセンは同じ事実からひらめきで思いもかけない真実を引き出していく。やや偶然に頼る部分はあるものの、ヨハンセンの魅力的なキャラクターと親友であるヤーネブリングのやりとりは面白く、終盤まであっという間に読み進めてしまった。もともとこの2人は著者の人気シリーズのキャラクターで、今回の著書はその掉尾を飾る作品だそうで、終盤にものすごく衝撃を受けたんですが、できれば若き日の、現役捜査官であったこの2人の活躍するシリーズを読んでみたい。

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by yamanochika | 2018-07-08 15:26 | 海外ミステリ
デヴィッド・グラン著 早川書房刊

1920年代のアメリカ合衆国、オクラホマ州オセージ郡で起きたオセージ族の連続怪死事件。それを解決に導いたことで、FBIの名声が高まり、州の境を超えた連邦単位のそ捜査機関が必要であると知らしめた。本書はその事件にまつわるノンフィクションであり、連続怪死事件の概要、FBIによる捜査と真相解明、さらに現在に著者がオセージ族の人々との対話や資料を丹念に調べることで判明した新たな恐るべき事実の3章から構成されている。

オセージ族の人々が大量殺害されるに至った背景には、彼らが元々生まれ育った土地から追われ、連邦政府にあてがわれた土地から石油という大金を生む地下資源が発掘された事が遠因として存在する。オセージ族の指導者は石油が見つかる前に、オセージ族が地下資源についても権利を所有する、地下資源を採掘したい人物はオセージ族に相応のリース料とロイヤリティを支払う必要があるという契約を連邦政府と結んでいた。そのため、石油が発見された後、彼らは今までに考えた事がないほどの金を所有することとなった。莫大な金は、それだけで悲劇を生む。

1921年5月24日、オセージ族のモリー・バークハートは、姉のアナが行方不明になっていることに不安を覚えていた。アナはやがて遺体で発見され、ほぼ同時期に同じオセージ族の男性が頭を処刑スタイルで撃たれた遺体で発見される。それを皮切りに、オセージ族の人々が殺人、あるいは突然の衰弱による奇妙な死を迎え、死者の数は20人以上に及んだ。モリーは姉のアナを亡くした後、母リジーの突然の病死、さらに妹リタとその夫の家が爆破されさらに家族を2人を失う。州の捜査官は何も発見できないか、あるいは捜査すら行おうとしない。オセージ族の依頼で連邦政府に事件解決を訴えるためワシントンに向かった白人の石油業者や弁護士が殺害されるに至り、街は恐怖に包まれた。
明らかに行政組織の一員も関わっている組織的な犯罪に対し、立ち向かったのがFBIから派遣されたホワイト捜査官だった。彼はいわゆる現場の叩上げの捜査官で、FBIがイメージさせようとしている大卒の背広姿の男たちとは違う捜査を行う人物だった。表に出て捜査する人間以外に、潜入捜査官を使い街の様子を探りながら、科学的な、専門的な手法で捜査を行い、犯人を特定しようとする。

最後に明かされる、著者自身の調査によって暴かれた事実を含め、なんともいえず恐ろしいのは白人によるオセージ族への搾取である。彼らを人間扱いせず、彼の得ていた受益権を手に入れるために組織的に彼らを殺害し、捜査を妨害し、さらに判決すら金を積むことで自在に操ろうとした。さらに、オセージ族は政府によって無能力者と認定され、彼ら自身の金を自由に使うことができず、白人の後見人がつけられ、後見人の許可がなくては病気になっても医者に払う金すら出すことができなかった。まともに事件として捜査してもらうことすら期待できず、数少ない彼らに好意的な人物たちまで殺されていく。この恐怖。よくぞオセージ族の人々が絶滅されることなく生き延びる事ができたと思わずにはいられない。


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by yamanochika | 2018-07-08 15:00 | 海外ミステリ

消えた消防車

M・シューヴァル&P・ヴァールー著 

刑事マルティン・ベックシリーズ第5弾。
厳寒のストックホルム。警察が監視中のアパートが突如爆発し、監視任務についていたグンヴァルト・ラーソン警部補は住人の共助活動に孤軍奮闘するが、出勤したはずの消防車がいっこうに到着しない。いったんは、爆発は焼死者の中にいた犯罪者の自殺による事故だったと決着が付きそうにになるが、火災を引き起こした火花はどこからきたのか判然としない。やがて浮かび上がってきたのは奇妙な犯罪の構図であった。

マルティン・ベックを主軸に、60年代から70年代のスウェーデン社会を活写した警察小説の第5弾。初期に比べると、刑事たちの個性が出ててきて、彼らの絡みが面白い。最初は脳みそが筋肉でできているような男にしかみえなかったラーソンが、ほぼ一人で火災現場から被害者の救助を行い、独自の捜査で事件の真相に近づいていく。マルティン・ベックよりも彼の方が味があるかもしれない。北欧から東欧にかけての犯罪ラインが事件の引き金となり、一つずつの事実を検証していくことで、事件が解決していくが、その進みは緩やかで、その緩やかさにリアリティがある。
通報があったはずなのに、火災現場に到着しなかった消防車。そして、誰も出入りしていないはずの家から忽然と消えたおもちゃの消防車。その真相の解明がなんともいえず鮮やか。

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by yamanochika | 2018-07-08 13:59 | 海外ミステリ

ピラミッド

ヘニング・マンケル著 創元推理文庫刊

ヴァランダーシリーズ初の短編集。
まだ刑事になりたての殺人課で働いていない頃から始まって、結婚し、刑事として能力を発揮して昇進していき、長編の最初の1作の直前に起きた事件までが語られている。つまり、本編が始まるまでの、若い頃のヴァランダーの物語である。
最初の2,3作は短編で、最後のピラミッドが中編。短編よりも、長編の方が読み応えがあり、一番話にのめり込めたのは「ピラミッド」だった。これはヴァランダーの描写が一番本編に近いものだったからかもしれない。
初期から最終話までにかけて書かれているヴァランダーの私生活については、妻との結婚生活が始まる前からあまりうまくいきそうにないことが示唆されており、新婚時代の一部を除いて結婚生活はほぼ破綻している。ヴァランダーが警察官になったことにより、父親との関係も上手くいかなくなっているが、順調とはいえないものの父子の間には絆が存在し、ヴァランダーの父親が積年の夢であったピラミッドを巡る旅でもその絆が見えてくる。
作中では移民を巡る問題が徐々に悪化している様や、スウェーデン社会の移り変わりも分かるので、ヴァランダーシリーズのファンであれば読んで損は無い作品だと思う。

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by yamanochika | 2018-07-08 13:31 | 海外ミステリ

地下鉄道

地下鉄道
コルソン・ホワイトヘッド著
早川書房刊

1830年代のアメリカ南部。ランドル農園の奴隷として生まれた少女コーラは新入りの奴隷に誘われて逃亡を決意する。
沼地を抜け、地下を疾走する鉄道で自由な北部ね向かうコーラ。しかし彼女たちを奴隷狩り人リッジウェイが追跡していた!


1830年代のアメリカを舞台に書かれた虚実入り混じった奴隷少女の逃亡譚。実際の地下鉄道は奴隷の逃亡を助ける為の組織の隠語であり、地下を走る鉄道は存在しない。しかし作者はあえて地下を走る鉄道を使い、コーラたちは鉄道を使って街から街へと移動する。その度に、同じ時代の同じ国であるとは思えない、全く違う様相を見せる街が登場するのである。
コーラが遭遇する出来事は史実に基づいていながら、フェーズを抜けるごとに現れる新しい場所や、その場所への移動はどこかSF的で違う次元への旅を経験しているよう。
一見すると、黒人を受け入れ、ある程度の自由を保証してくれているサウス・カロライナ。全ての黒人を締め出し殺害しようとしているノース・カロライナ。
目には見えにくい迫害や、屋根裏の隠し部屋に身を潜めながら、それでもコーラは生きようとする。その彼女の、彼女たちの情熱、勇気に圧倒された。
作中では黒人に対する差別だけではなく、当時大量に移民して来ていたアイルランド人への差別なども描かれており、今日のプアホワイトの問題の一端も見て取れるようになっている。




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by yamanochika | 2018-04-07 18:28 | 海外ミステリ

生か死か

生か死か

マイケル・ボロサム著 ハヤカワミステリ刊

4名が死亡した現金輸送車襲撃事件の共犯者として10年の刑に服していたオーディ・パーマー。事件で奪った7百万ドルの行方を誰にも漏らさず出所すれば金を手にすると目されていたが、出所日前日に突如脱獄を果たす。
彼の目的は何か?

出所日前日の脱獄という衝撃的な場面から始まり、オーディの目的は何かで引っ張りつつ、彼を追う人々を配しスピーディに話が進んで行く。一方でオーディの過去の回想シーンはゆったりとした雰囲気で、ノスタルジックに進む。
テンポの違いが緩急を生み出していてすごく読みやすい。
こういう小説の主人公にしては物慣れない、素人くさいオーディの行動に疑問を感じていたので、最後の真相には納得。と同時に、こういう展開だからの愛する人の願いを叶えるために彼が取った行動に感動がある。
脇を固めるモスやデジレー捜査官もいい味出してます。彼らの活躍するスピンオフも読んで見たい。

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by yamanochika | 2018-03-25 14:07 | 海外ミステリ

フォールアウト

フォールアウト
サラ・パレッキー著 早川ミステリ文庫

前作で知り合ったバーニーに頼まれ、窃盗の疑いをかけられた行方不明の黒人青年オーガストを探す事になったヴィク。彼の行方を探すうちに、何者かが彼のアパートも荒らしている事がわかる。老女優エメラルド・フェリングと共に女優の出身地カンザスへ向かったオーガストを追い、カンザスへ向かったヴィクは、腐乱死体を発見し…


主な舞台となるのはカンザス、ヴィクが探す女優の名前はエメラルド。お供に犬も従えて、なんとなくオズの魔法使いを連想する内容。過去に起きた事件が現在にも影を残し、カンザスという土地の風土がそこに味を添えている。
政府の影を感じさせつつ上手くまとまっていて読みやすい。かつて意気軒昂で痛々しいくらいだったヴィクも年を重ねて、落ち着きを持って若者たちを宥めたり、彼らを見守る役割を果たすようになったのも読みやすさの理由の一つか。



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by yamanochika | 2018-03-04 17:47 | 海外ミステリ

獣使い

獣使い
カミラ・レックバリ著 集英社文庫刊

エリカ&パトリックの事件簿9

森の中から裸同然の少女が現れ、道路に踏み出して轢死した。少女は4ヶ月前から行方不明になっていた乗馬クラブの生徒ヴィクトリアで、検死の結果眼球がくり抜かれ、鼓膜が破られ舌も切り取られていた事が分かる。ここ数年、近辺の都市では同じ年頃の少女が何人か行方不明になる事件が起きていた。ほぼ全員が家出するような動機がなく、彼女らの安否が危ぶまれるが…。

裸同然の少女が現れ車に轢かれるというショッキングな幕開けから始まり、その衝撃は彼女が五感を奪われ何者かによって虐待されていたという事実でさらに上書きされていく。パトリックの捜査と、エリカが著作のために面会している「恐怖の館」の住人、ライラの回想で物語が進む。
ライラの物語とパトリックの抱える事件は当然どこかで絡み合うわけで、真相のある程度は予想がついていたものの、最後まで読むと騙し方の上手さに唸らされた。
ある意味事件は解決していないので、今後にこの話がどう絡んでくるのか、非常に楽しみ。


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by yamanochika | 2018-02-24 08:03 | 海外ミステリ
ジョン・ル・カレ著 早川書房刊。

表紙が非常にかっこいい、ジョン・ル・カレの回想録。
時系列順にはなっておらず、過去の仕事の事、巡り会った人々、父親の事などが一つ一つ完結したエピソードとして語られている。
回想録、というよりもエピソードに必ずオチがついてまとまっているのでエッセイのような感じ。
本をもとに香港を舞台にして小説を書き上げ、実際に香港を訪れたら資料の頃から地理が変わっており、慌てて書き直しし、原稿を差し替えたこと。それからは小説の舞台とする場所に必ず取材旅行に行き、関係者に取材していること。
そして訪れた場所や、出会った人々の話。一番多いのはドイツの話でしょうか。この話が、この小説の元ネタになったんだなというエピソードがわかり、興味深い。
印象に残ったものでは、イスラエルへのテロを画策したものの、イスラエルに入ってすぐに拘束され収容された西ドイツ女性の話。
話の最後に、それまでは英語しか話さなかった看守を務めていた責任者が訛のない完璧なドイツ語を話していることに気づく。カレがそれに気づいたことに気付いた看守は、「彼女とドイツ語で会話したら何をしてしまうか分からないから英語で話しをするように努めている」と説明する。「ダッハウにいたので」。
静かな話なのにすごみを感じるエピソード。

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by yamanochika | 2018-02-22 23:48 | 海外ミステリ

キリング・ゲーム

ジャック・カーリィ著 文春文庫刊。

モビールで起きた複数の殺人事件。殺害方法はバラバラで人種や年齢も様々だが、どうやら同一人物の犯罪であるらしい。彼らを結ぶものは何か、そして犯人の動機は?

カーソン・ライダーシリーズの最新作。
ライダーたちが捜査を進める一方、犯人である人物の視点で独白が入る。ルーマニアで心理実験の被験者にされた犯人が誰であるかは分かるが、動機はつかめない。一方で、バラバラで無秩序な連続殺人事件が起きるのが一番怖いと話していたライダーは、まさに恐れていたような事件のために追い詰められながら、必死に手がかりを探す。

サスペンスとミステリのいいところを一挙取りした作品で、かなり楽しめた。犯人の動機が分かっても、さらに驚きが待っている。早い段階で伏線は張られているのだが、あのシーンまでそこがこうつながるとは思わなかった。事件としては解決しているけれど、ある意味解決していないので、今後の話にこれが生きてくるのか非常に楽しみ。

続刊を待っています。

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by yamanochika | 2018-02-22 23:37 | 海外ミステリ

日々読んだ本の記録。他映画、漫画等の感想などあれこれ。感想はネタバレありです。ご注意下さい。


by yamanochika
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